W2×1　【MiyabihimeA】

「母親と逸れたのか？」
　聞いても涙を拭いながらしゃくり上げるだけの子供に、答えを求める自分が馬鹿らしくなる。どう考えても迷子だろう。家族に似た格好をしていた自分にしがみ付いたが、違ったのでパニックになって泣き出したのがオチだと決め付け、しかたなく屈んだ。
　以前に「子供と相対する時は、目線を合わせるのが大事だ」と聞いた事がある。確かに話をするなら、視線を合わせた方が好ましい。相手の視線が低いなら、自分が屈むのも当然だと思った。
「一緒に捜してやる。母親はどんな服装をしていた？」
「・・・っ、こういうの・・・」
　まだ３歳前後の子供の言葉は拙く、泣いているのも手伝って聞き取りづらかった。根気よく、少しずつ聞き出した結果に、ヒイロは周囲を見回して該当しそうな女性を捜し始める。
　黒髪と黒い髪は子供と同じ。髪は肩より少し長くて、ヒイロと同じようなブラウンの服装。この子供の姉だという５歳前後の女の子を連れている筈だ。
　見回した中に、条件が当て嵌まる女性は見つからなかった。
　市場で賑わう町で、途方にくれたヒイロはとりあえず、近くの店の人間に声をかけてから、子供の手を引いて歩き出す。このまま立ち止まっていても、親は見つからないだろう。ならば市場の者に伝言を頼んで、宿にいた方がいいと判断したのだ。謝礼を払うと言ったら、市場の店主がこぞって協力を申し出てくれた。
　幼い子供の歩調に合わせながら、普段よりゆっくり宿へ向かう。一生懸命ついて来る子供は、歩くことに必死でヒイロを見上げる余裕もない。そんな幼い仕草を可愛いと微笑んだヒイロの表情が、ふっと翳った。
　・・・・・今、思い出した。
　宿に待たせた、誰より心の狭い独占欲の塊―――子供の世話を焼くのは、当然俺になるだろう。あいつは大人しくそれを我慢できるか。いや、無理だ。
　自問自答は、即答で終わる。
　ならば―――数少ない選択肢の中から最良と思われる方法を選び出し、ヒイロは重い足で歩き続けた。


　猫の爪に似た、キレイなアールを描く爪を獲物に突き立てる。刺さった感触は柔らかく、そして爪が食い込む瞬間の愉悦感を思い出させた。
「・・・・あ、ぁっ・・・」
　涙を零し、悲鳴すら喉に凍りついた女性の肌は怯え、青白く震えていた。茶色い髪は長く緩やかなウェーブを絡みつかせて、赤い唇は恐怖に紫色に変わる。美しいと誰もが褒めてくれた美貌は、引き攣って鬼の形相だった。断末魔の叫びを上げ続けた喉は、もう限界で・・・ヒュー、ヒューと乾いた呼吸の合間に、僅かな悲鳴がこびりつく。
　哀れな彼女の頬へ、尖った爪が細い傷をつけた。びくりと脅える女性の榛色の瞳がきつく閉じられ、すぐに見開かれる。絶叫した筈の声は掠れて出ず・・・ただ、哀れな細い悲鳴が絞り出された。
「・・・・・ゃ・・、ひっ・・・・・・ぃ」
　抉り出した瞳を興味深そうに手のひらで転がす魔物は、まだ幼い姿をしていた。初めて見つけた人間を捕らえ、安全だと思われる空間で遊ぶ。それが命を奪う残虐な行為だと知らず、ただ美しい物を不思議そうに傷つけてバラバラに解体していく。
「不思議・・・でも奇麗」
　単純に、純粋な興味で人体を解体し続ける子供は、闇のような黒髪を揺らしながら笑う。うっとりと、嬉しそうに・・・それは幼子の表情ではなかった。くすくす笑いながら、息絶え絶えに転がる女性の心臓を長い爪で抉って突き刺した。
　残された榛色の片眼が命の色を失い、光の消えたガラス玉となって最後の涙を落とす。それを残念そうに見つめながら、血で赤く濡れた指を舌で辿った。丁寧に、爪についた血を舐め取る。
　蜂蜜を舐める様に似て、子供は無邪気に手を清め終えると、静かに目を閉じた。最初に女性を傷つけた時の絶叫も、懇願の声も・・・呼吸の音すら消えた空間はひたすらに静かで、耳を突き刺す沈黙が降り積もる。そんな中、子供は口元を歪めて・・・・残酷に笑った。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　ちょっと意味不明っぽい？
　前回より、さらに登場人物が増え、さらにシーンが飛んでます。残虐シーンもありましたが、この子供は次回かその次くらいにデュオに鉄拳を食らうでしょう・・・・そりゃーもう、容赦なく（笑