W2×1　【MiyabihimeA】

　第一、カトルやリリーナがいることを確認して爆破するなら、時限式を使う必要などないのだ。逆に時限式では不都合な点が多すぎる。
「うん、確かに・・変だ」
　実際にカトルもリリーナも、主要なメンバーにはほとんど被害はなかった。シャトルが遅れたから助かった地球側の関係者と、まだ会場入りしていなかったコロニー関係者、偶然が重なって・・・・！
　もし・・・シャトルの遅れが予想外ではなく、人為的なものだったとしたら？！　関係者のほとんどいない会場を爆破した事も計画の内だったら？
　Ｌ２コロニーのシステムすべてを掌握するくらいの技術と知識があれば、シャトルの航行システムくらい簡単に操り、好きなように変更できるだろう。
　殺すことが目的ではないとしたら―――！！
「トロワ、ヒイロとデュオに連絡してッ！　もしかしたら目的は僕や会議の中止じゃなくて、彼らの方かも知れません！！」
　トロワがすばやく動き出す。カトルを五飛に任せると、自分は車を飛び出した。
　一番近いビルの端末を拝借し、Ｌ１への通信回線を開こうとコールする。しかし、爆破と一緒に振りまかれたジャフの影響で、通信回線は役に立たなかった。その現象が、カトルの危惧を肯定している。
　サラはスイーパーのテロ予告を陽動に使ったのだ。そしてガンダム・パイロットの注意がそちらに集中するよう仕向け、デュオかヒイロをターゲットに本命の部隊を動かそうとした。
　姑息なまでに用意周到なサラ・ミレイユの行動に、トロワはコンピュータの端末を放り出す。
「僕が直接シャトルを手配します。Ｌ１へ向かってください、こっちは僕が何とかしますから」
　事態を甘く見ていたことに表情を曇らせながらも、カトルは的確に指示を出した。Ｌ１へ２人を向かわせ、カトルは会場へ向かう。彼の仕事はまだL4に残されていた。
　コロニー議会と地球の統一国家を動かし、Ｌ２コロニー群の住民救助を開始する。デュオとヒイロがターゲットになっている今、スイーパー・グループの勢いを殺ぎ、少しでもＬの市民を助けなくてはならない。
　たとえ２人を囮にする事態になっても―――自分を守る術を持たないコロニー市民の命を優先させるのが、カトルのウィナー家当主としての立場だった。
　大切な仲間・・・一緒に戦い抜き、悲しみも辛さも苦しみも同じ大きさを背負った人たち。自分の身も心も犠牲にして、ようやく平和の中で自分を見つめて歩き出した彼らを、大切に見守って行きたいと思う。
　それでも・・・コロニーで最高の権力を持つ者として、彼らよりもコロニーの弱い市民を優先しなければならないジレンマ。
　彼らは分かってくれるだろう。だからこそ辛いけれど、それでも身を守れない者を放って置くなど・・・カトルには出来なかった。

◆◇◆
　デュオの元に連絡が入ったのは、カトルたちと別れてからすぐだった。
　　ピピピ。
　耳慣れたＢＢのコール音にでゅおが応じる。キーボードに打ち込まれる暗証コードに、デュオは相手をレイルだと確認して回線を開いた。
「レイル、情報入ったのか？」
　赤毛の青年に、デュオは対等の口を利く。レイルの方が年上で、昔から世話になっていた事を考えると、敬うのが当然のような気がするが、この対等な関係が彼らのちょうどよい距離なのだろう。
　レイルも気にした様子なく、デュオにディスクを掲げて見せた。
「うちのブレーンが２日間徹夜で調べた結果だ。まあまあの線だと思う・・」
「了解。それとＬ２コロニー群のシステム回復は、そっちじゃ無理か？」
　随分と失礼なデュオの言い分に、レイルは溜め息をついた。だがすぐに苦笑を浮かべると、隣にいたらしい少年を手招きで呼び寄せる。
　ミカエルといぅコードネームを持つ栗毛の少年は、レイルに促され、いくつかの情報を選び出した。目を覆うような長さの前髪の所為で、俯いた彼の表情はまったく見えない。しかし、そのいつもと違う動きにデュオは首を傾げた。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....