W2×1　【MiyabihimeA】

「・・・甘いな」
　くすくす笑うデュオの前で、シフェルが炎を受け止めていた。飛んできた赤い炎を、より温度の高い青白い炎で吸収してから、相手へと弾き返す。悲鳴を上げて宙を転げ回る青年の全身は、生きたまま焼かれて膨らみ、すぐに爛れて炭になって落ちる。
　青年の魔力を一瞬で武器に変えたシフェルは、静かに辛辣な言葉を吐いた。
「この程度の実力で、死神とその眷属に挑むのですか？」
　馬鹿にした態度に、しかし残る５人は動かなかった。挑発に乗って動けば、相手の思う壺と気づいたのだ。戦いの経験だけはそれなりにあるらしく、互いの属性を利用して攻撃するつもりらしい。
　氷の槍を矢に変え、風の力に乗せて飛ばす。敵を貫くまで止まらない矢を、デュオはデスサイズで砕いた。舞うような優雅な動きに従い、デスサイズの刃が輝き、髪がふわりと風を孕んで流れる。
「ったく、面倒な奴らだ」
　一斉に掛かってくれば楽なのに。とんでもない事をぼやいたデュオの背で、黒い翼が広げられる。ばさりと乾いた音を立てる翼は漆黒、青い光を帯びて見えた。
　敵にも関わらず翼に見惚れていた女性は、デスサイズの刃に体を２つに分断される。右肩から食い込んだ刃は、容赦なく左の腰へと抜けていった。斜めに胴体を切られた彼女が悲鳴を上げる間もなく、手にしていた氷の槍は解け、全身が青白い炎に包まれる。
「あと４人・・」
　にやりと笑ったデュオの唇が呟く。
「どこまで殺すか・・どれを生かすか」
　全員を殺してしまっては意味がなかった。他の若い魔物達に己の存在を知らしめる為の殺戮なのだ。もちろん最初に仕掛けたのは彼ら７人であり、デュオは火の粉を払ったに過ぎない。
　じっくりと４人の魔物を確認した。
　赤い衣装の胸の大きな女性、どこか細い印象を与える神経質そうな男、まだ少年のような初々しさを残す黒髪の青年、すらりとした足を見せつける金髪の女性。
　考えたのは僅かな時間だけ。シフェルに視線をやれば、手にした炎を弄びながら頷く。どうやら同意見だと判断したデュオが、左手のデスサイズで１人を指し示した。
「おまえだけ・・生かしておいてやる」
　目を見開いた黒髪の青年・・いや少年と呼べる幼さを残す魔物を、デュオの結界が包み込んだ。
「シフェル、下がっていろ」
　自分より後ろに下がるように告げる弟に従い、大人しくシフェルは炎を収めて移動する。どうやら纏めて３人を始末し、その様を彼に見せ付けるらしい。吹聴してもらう必要がある為に、一番の特等席を用意した。
　死に逝く仲間達の目の前・・・術の只中でありながら、結界の為に逃げることも死ぬことも出来ぬ場所。その残酷な計らいは、死神と呼ばれたデュオにとって楽しみの一環でしかなかった。
＜闇の王たる我が名を崇めよ。デスサイズを核とし、我は命じ召還する＞
　神々の古代語が音楽のように韻を踏んで響く。
＜ライザ、目の前の獲物を食らい尽くせ＞
　デスサイズの刃を出口として、蔦のような植物が飛び出す。いや、植物ではないのだろう。毒々しい赤紫の蔦の先は、蛇の口のように開いていた。牙が生えた口から硝酸の臭いが広がる。
　反射的に逃げようとした金髪の女性の背に、ライザは飛びついた。体を貫いて胸から生えた醜悪な蔦に、悲鳴が上がる。だが次の瞬間再び体を貫かれ、口から血を吐き出す。
　赤い衣装の彼女の全身は、すでに肌まで血で染まっていた。神経質そうな男性の手足は蔦に拘束され、攻撃する間もなく大量の蔦に全身を締め付けられる。生きたまま食い殺される仲間の姿に、黒髪の魔物は結界を破ろうと暴れた。
　その彼の周囲を包む結界がようやく解かれても、死神に挑んだ愚かな６人分の欠片が周囲に散らばっているだけ。呆然と仲間だった肉片を見つめる青年へ、デュオは屈みこんで視線を合わせた。
「おまえは殺さない・・・行け」
　震えながら睨み付けて姿を消した青年を見送り、溜め息をついたデュオがデスサイズを還す。手の中に呼び出した白炎でシフェルが死体を焼き尽くす光景を他所に、空はどこまでも青く・・・風は優しかった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

---

　う～ん、忙しくてイラついていた所為か・・・かなり凄惨な場面が強調されてしまいました。それもこれも悪いのは綾雅じゃなくて、デュオね♪　←人はそれを責任転嫁と呼ぶ（笑