W2×1　【MiyabihimeA】

「ヒイロ、眠くなったんだろ」
　くすくす笑いながら、甘やかすデュオの手が目を覆う。視界を遮られた事で、さらに陽光の暖かさに眠気を誘われた。大木の根元に腰掛けた２人の上に、穏やかな時間が降り積もる。
　薄ら開いた瞳に映るのは、日に焼けない真っ白な指。神族特有の抜けるように白い肌は、デュオが母親から引き継いだものだ。魔物と神族の間に生まれた―――唯一無二の存在。稀有な生まれと実力を誇る彼が、何を思って膝を折ったのか知らない。ただ、自分が愛され大切にされているのは事実で、生まれて初めての経験に戸惑っているのも、また現実だった。
「いいよ、急ぎじゃないんだし・・寝ちゃいなよ」
　見守ってるから。言葉の裏に隠された優しさを垣間見て、ふっと全身から力を抜いた。寄り掛かれば、支えてくれる腕がある。当たり前のことなのに、ヒイロはあまり経験がなかった。
　物心つく頃には、呪文もなしで術力を発動させられた子供・・両親も周囲も、ヒイロを子供として扱ってくれることはなく、遠巻きに眺めているだけだったから。
　やっと見つけた、安心できる腕が”人間”じゃないところが、ひどく自分らしくて・・・。
「おやすみ・・・・ヒイロ」
　静かに瞼を伏せた。

　ヒイロの呼吸がゆっくりになり、完全に眠った事を確認したデュオが目を細める。大切な主―――魔名と無償の愛を捧げる人、どんな言葉で飾っても追いつかなかった。
　漆黒の髪も蒼い瞳も、その整った顔立ちも。ヒイロだから価値があった。魔物にとって人間の姿形など、たいした意味を持たない。興味を持つのはその魂、心のあり様なのだ。
　彼の人が「滅ぼせ」と告げたなら、この世界さえ滅ぼしてみせよう。その為に己の身が砕けたとしても、後悔したりしない。誰より、何より、美しくて清い魂を持つ存在だった。
　力を持つほど美しさを装う魔物と違い、人間は生まれついて美しい存在がいる。中身は醜悪であっても、皮一枚の差で彼や彼女達は愛された。どんなに不条理に思えようと、それが現実だ。
　だから、持っている力のバロメーターとして美を纏う魔物と一線を画す人間の美醜へ、魔物は興味を示さないのが常だった。
「・・・・シフェル・・」
　自分の兄であり、片親だけ血が繋がる魔物を呼ぶ。小さく、唇だけで呼びながら、ヒイロの上に翳した手で魔力を送り込んだ。傷つける為でなく、ただ彼の眠りを妨げないように願いを込めて。
　魔力で深い眠りへ導けば、簡単に目覚める心配はなかった。
　一陣の風が抜ける。
　ブラウンの長い前髪が揺られた。
「はい」
　呼ばれた青年が姿を見せる。ブロンズ色の特徴ある髪色の青年は、静かに膝をついた。新緑色の瞳は穏やかで、苛烈な印象を放つデュオの青紫の瞳とは正反対の性格を如実に感じさせる。
「サリファ」
　もう１人呼び出す。胸元の大きく開いたシャツと、スリットの入った膝丈のスカートの美女が降り立つ。
「デュオ様、ここに・・」
　シフェルの隣に膝をついて微笑を浮かべた。しゃらりと風に流れる柔らかそうな髪は青銀、埋め込まれた瞳の色は澄み渡る空を思わせる。幼く見える顔立ちは、可愛らしい印象を与えた。
　力と美しさが比例する魔物の社会において、デュオに従う２人は上級魔性と呼ばれるだけの実力者だ。魔王の側近クラスに匹敵する魔力と能力を誇る。
「サリファは結界を頼む。ヒイロを守れ」
　眠り続ける主の額にキスを落とし、そっとその体を木に寄り掛けた。離れた温もりを惜しいと感じながら、溜め息で我が侭を殺して立ち上がる。
「面倒くさい連中が騒いでるんでな、片付けてくる」
　青紫の瞳が物騒に眇められた。長い三つ編みを解くと、ばさりと背に翼を広げる。漆黒の闇を切り抜いたような、どこまでも艶やかな黒は青さを帯びていた。
「いくぞ、シフェル」
「仰せのままに」
　従うシフェルに一瞬羨ましそうな目を向けたものの、すぐに気を引き締める。作った結界の中で微睡むヒイロの隣に座り、サリファは柔らかい笑みを浮かべた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　ぐはっ・・・シフェル君、すっかりアッシーですね（笑
　ところで、デュオが突然動き出しましたが・・・実はカトル坊ちゃん周辺にちょっかいだされ、かなりイラついた結果です。暴走しなきゃいいですね・・・・すでに他人事（苦笑