W2×1　【MiyabihimeA】

　彼の殺伐とした経歴を考えれば、可愛い仕草なのだが。
「また狙われたそうだな」
　苦笑いが滲むトロワの落ち着いた口調に、見上げる事もなく頷く。殺した事は悔やまないが、後味の悪さは毎度彼を凹ませていた。
「相手もバカだよね」
　淹れたばかりの紅茶片手に、カトルが柔らかい笑みを向ける。礼を言ってカップを受け取り、結局溜め息をひとつ吐いた。
「まあ・・そう言うと、身も蓋もないけど」
　ぼやきながら、カップに口をつける。香り高い紅茶の自然な甘さに、少し気分が上昇した。
「何を悩んでいる！」
　相談に乗るというより、問い質す響きが強い五飛を見上げる。行儀悪く机につぶれたままで、顔だけを向けた。珍しく「行儀が悪い」と怒らないだけ、五飛も気を使ってくれているんだろう・・たぶん。
　格闘訓練仲間として、非常に相性がいい五飛の黒髪をみるなり、デュオは盛大に肩を落とした。
　心配の種は・・・この場にいない最愛の人だ。ヒイロの安全が脅かされることを想像しただけで、ぞっとする。
　一緒に歩いていて、絡まれただけなら撃退できる。だが、もし狙撃の流れ弾がヒイロに当たったら？　待ち合わせした場所に、爆弾を仕掛けられたら！
　考えは限がなく、それ故に恐怖は増大し続けた。
「言えないのか？」
　偉そうに上から物を言う態度の五飛だが、その黒曜石の瞳を見れば、かなり心配してくれているのが伝わる。
「いや、そういうんじゃない・・」
「ヒイロに被害が及ぶのを心配している、違うか？」
　あっさりと確信をついたトロワの、片方しか見えない緑瞳を振り返る。一瞬で言い当てた青年は、やはり・・といった表情で首を横に振った。
「あいつなら大丈夫だろう」
　戦時中に一緒に行動することが多かったトロワは、ヒイロの実力を正しく判断している。そう信じる五飛やカトルは、疑問もなく彼の意見に頷いた。
「ん・・・ヒイロの実力はオレだって信じてる」
　一緒にペアを組んでの仕事が多いデュオは、当然とばかり言い切った。その声色に不安や不信の色はない。
「ただ・・・・・怖いんだよ」
　意味もなく、ただ漠然と不安が広がるのだと――――どう説明したら、彼らに正確に伝えられるだろう。
　自分でさえ、上手に表現できないのに・・・。
　普段から他人の意見を汲み取ることに長けているカトルは、困ったような表情で首を傾げた。
「ヒイロを傷つけられるのが怖いってこと？」
　少し違うけれど、かなり核心をついた表現に頷く。
　こくんと頷いて、再び机に懐いたデュオの手が、胸ポケットから煙草を引っ張り出し、慣れた仕草で口に咥えた。
　スイーパーの規則は不明だが、プリベンターでは禁煙が原則で、三つ編みの青年も知っている筈だった。だが、注意するまでもなく気づいているのか、煙草に火がつけられることはなく、ただ口に咥えるだけ。
　唇に挟んで、ゆらゆら動かしながら、小さく息をついた。
「ま、ここで心配していてもしょうがないよ」
　今日出張から戻るヒイロを迎えにいきましょう。そう告げられ、金髪の青年は笑顔を見せた。コロニー会議で見せるような社交辞令でない、彼本来の柔らかな笑みは見る者をほっとさせる。
　ヒイロを出迎える事に異論がある筈もなく、４人は揃ってドアへ向かった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....