W2×1　【MiyabihimeA】

　最初に事態を告げに来たシフェルや、デュオの暴走を食い止めるべく呼びに行ったジャックと違い、ぴりぴりした空気を纏ったまま、店の奥へ入っていく。客とホストの目に映ったのは、黒いコートに包まれた小柄な少年を抱いたデュオの険しい表情だった。
「デュオ、どうしたのかしら？」
　お気に入りのホストと遊んでいるキヨミが首を傾げる。可愛らしい外見に似合いの声に、カインは笑顔で彼女へグラスを差し出した。反射的に受け取ったキヨミに、拗ねた表情で囁く。
「僕と一緒の時は、僕の事だけ考えて欲しいな」
　幼く見える顔立ちと相まって、女性の心を鷲掴みにするカインの仕草に、キヨミは顔を赤く染めて笑う。謝る代わりに隣のカインへ寄りかかり、酔いに火照る体を預けた。

　ホスト達の控え室として使用される部屋で、ストーブの前に少年は下ろされた。フローリングの床はシフェルの配慮で、毛足の長い絨毯が敷かれている。上にちょこんと座った少年の前に、湯気を立てたティーカップが置かれ、デュオが言い付けた条件をすべてクリアした。
「カフェオレを用意しました」
　デュオへ一礼するシフェルに、「ご苦労さん」と労いの声をかける。肩に掛けられたコートを掴んだままの少年に歩み寄り、デュオは床に膝をついた。膝はもちろんだが、轢かれそうになった少年を庇った際に転がったので、スーツは埃で白く汚れ、三つ編みも少し解けている。身だしなみは人一倍気にするデュオだが、今は彼の方が気になった。
「・・・ケガ、してない？」
　下手に出るデュオに対し、黒髪の少年はこくりと頷く。気づけば、少年はずっと言葉を発していなかった。震えはだいぶ治まっているが、まだコートを離さない少年の隣に座ったデュオは、彼を温めるように腕を回して抱き締める。
「良かった・・・おまえが無事で」
　何度か瞬いた少年の瞳は、澄んだ蒼だった。
「デュオ・・」
　部屋を出ようとしていたシフェルは、背後の少年の声に一瞬足を止めたが・・・そのまま部屋を出てドアを閉めた。
　あの２人、面識があったのですね。立ち聞きする趣味はないので、さっさと店に戻る。だが、デュオと共に今日の売上げノルマを達成したシフェルは、どこかのテーブルに着く気にもなれず、ジャックがグラスを磨くカウンターへ落ち着いた。
「どんな様子だ？」
　先ほどのデュオの気に当てられてざわめいていた店内も、ようやく普段の雰囲気を取り戻していた。その空気を壊さないよう、そっと小声で尋ねる。ジャックの差し出したグラスを煽りながら、シフェルは緑の瞳を和ませた。
「知り合いみたいですね」
　差し障りのない程度の会話で話を終了させると、静かに息を吐き出した。
　あんなデュオさんの態度、初めて見ました。長い付き合いなのに、結局彼について何も知らないのだと、シフェルは苦い思いを飲み込む。
　慌てて車道へ飛び出した瞬間、きっと彼は何も考えていなかった。自分が轢かれるかも知れないことも、後ろに自分が控えていたことも、見送ったばかりの客も・・・・・すべて忘れて、ただ目の前の少年にだけ集中する。金しか信用しない男が初めて見せた人間らしさ―――さらにデュオに魅了される自分に気づけば、諦めが心に広がった。
　再び琥珀色の酒を満たされたグラスに口付けながら、余計な事を聞かないジャックに感謝する。なんとなく、今は誰とも話したくなかった。

「オレのこと覚えてたんだ、ヒイロ」
　僅か１度の出会いだった。無言を貫くヒイロの態度に、覚えていなくてもしょうがないと諦め半分だった気持ちが上向く。
　店で女性客に見せる笑顔より数段明るい表情で、ヒイロの手にカップを握らせる。
「暖かいうちにどうぞ」
　冷たいホストの顔を脱ぎ去ったデュオの柔らかい物言いに、ヒイロの強張っていた表情が和らいだ。言われるままにカップを両手で包み、その温かさにほっと息をついた。
　口つければ、甘めに入れられたカフェオレの味に口元が綻ぶ。
「おいしい・・」
「よかった」
　まだ抱き締められた状態だが、ヒイロは抜け出そうとしない。逆に寄り添うように、力を抜いて身を任せた。
「・・・・・あんな薄着で、いきなり車道に出てくるなんて」
　どうしたんだ？　そう問いかけられるのだと思い、ヒイロが身を震わせる。答えられない・・・答えたくない質問だった。だが耳に届いたのは、もっと切ない言葉で―――。
「本当に驚いた。心臓が止まるかと思ったぜ」
　見上げれば、言葉を証明するように心配を滲ませた紫藍が瞬く。
　本当は聞きたいのだろう。何があったのか、どうしたのか・・・そんな質問を押し殺して、尋ねようとしないデュオの優しさが嬉しかった。
　だから―――
「お前に会いたかった・・」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　おおっと！！　ヒイロさんから「会いたかった」発言ですよ。幸せ者だね、デュオ。でも、あんなに最低な男なのに、いきなり幸せってどうよ？　というか、裏設定を山ほど考え付いてしまい、「ちょっと現実離れしてるか？　いや、連中自体が現実離れしてんだからいっか！」と自分の中で落ち着けています。使い魔や吸血鬼シリーズみたいに、設定だけでシリーズ化できそう（笑
　
　追伸：清美さま・・・勝手にお名前借りました。デュオの客になると悲惨なので、可愛くカイン君のお客様ということで！　きっと彼はデュオより大事にしてくれるでしょう♪
　あ、嫌がらせじゃなくて、ちょっとしたサービス・・・・・・どうだろ。人によっては嫌がらせなのか？？？