W2×1　【MiyabihimeA】

　ビルの階段を境目に繰り広げられている銃撃戦を尻目に、青年はひどく落ち着いている。特徴のある髪色や緑瞳が、彼の素性を物語った。
　スイーパーで、デュオに次ぐ№２の地位を与えられた青年。その実力は一流の名を冠するに相応しいものがあり、ヒイロや五飛も面識がある。
「お久しぶりです、ヒイロさん」
　シフェルの言葉にぎょっとしたのは、すぐ近くで銃を敵に向けていたジャックだった。デュオの想い人だという話は知っているが、本人を目の前にしたのは初めてで。自分より３つも年下という年齢の割りに大人びてしまった、同期のデュオに「アイツ、面食いだったんだ」と奇妙な感想を抱く。
「・・状況は？」
「膠着しています。ただ・・・もうすぐデュオさんが屋上から回り込むので」
「ならば、俺達は裏口から攻める」
　了解しましたと頭を下げるシフェルが、口元に薄く笑みを浮かべた。しかし、彼の表情はヒイロには見えない。そのまま走り去る後姿を見送って、通信機のスイッチを入れた。
「シンよりデスへ。流星あり」
　暗号と呼ぶより簡単な単語だが、固有名詞をそのまま伝える訳にいかない。普段から使っているコードネームに重ねて、短く伝えた。少しのノイズが交じるのは、ビル内にＥＣＭ（特殊な電磁波）を展開しているからだ。通常の通信機なら使えなくなるが、特殊な波長とＥＣＭを応用したＴＷＳシステムなら通信可能だった。
　微かな間があり、デュオの声が返る。
「天使か？」
「ええ」
　最短の会話で状況を理解したデュオが通信を切る。直後に溜め息をついた。
　出来れば顔を合わせたくなかったのに・・・・。
　まだ敵と遭遇していないのをいいことに、廊下を一気に走り抜ける。薄暗い廊下の先で聞こえる銃声は、どうやら応戦する敵とシフェル達の物らしい。エレベーターホールを抜ければ、非常階段へ続くドアが見えた。その向こうから聞こえる銃声に笑うと、通信機のスイッチを入れる。
　インカムから、僅かにノイズが聞こえた。
「３秒後だ」
　小さく告げる。それだけで用は足りた。全員が一斉にゴーグルを嵌めて、階段のドアから離れる。それをスイーパーの撤退と見て取ったテロリストが図に乗るより早く―――閃光が周囲を埋め尽くした。
　音はない。だが、閃光弾に視力を奪われたテロリスト達は、パニックに陥った。銃を放り出して目を覆う彼らを、ゴーグルをしたスイーパーのエージェントが撃ち抜いていく。
　もちろん、殺したりはしない。それでは契約違反になるからだ。生かして捕らえ引き渡す―――それが契約内容だった。
　痛みに呻く男達を縛り上げていると、駆けつけた五飛が眉を顰める。迅速なスイーパーの対応に文句はないが、自分達が無駄足を踏んだ事実が気に入らないのだろう。察したシフェルの合図で、プリベンターのエージェントに捕らえた連中を引き渡した。
「背後関係、その他の調査はお任せします」
「預かろう」
　鷹揚に答えた五飛に一礼すると、ジャック達は引き上げる。ふと・・・ヒイロがいない事に気づいたシフェルが目を細め、ちらりと背後のドアを振り返った。階段へ続くドアの向こうで、彼らは顔を合わせたのだろうか。
　作戦が成功したにも関わらず、デュオからの通信はない。それが総てを物語っている気がした。
　・・・・・うまく行きましたか。
　プリベンターへ通報した甲斐があったと唇の端を引き上げて笑い、シフェルも踵を返した。



「・・・なんで？」
　掠れた声を出したデュオは、すぐに仮面をつけた。性質の悪いポーカーフェイス、それは笑顔を貼り付けた彼一流の拒絶だ。
　むっとした表情で睨み付けるヒイロに気づいているだろうに、デュオは肩を竦めただけだった。
「よ、ヒイロ。お疲れさん。もう片付いてる頃だぜ」
　目を逸らしたまま、笑顔で告げる男。隣を擦り抜けようとしたデュオの右手を、ヒイロが掴む。右手に持っていた銃を床へ落とし、掴んでいる左手に力を込めた。不思議そうな顔を作って振り返った男への苛立ちが満ちる。
　気づけば、デュオの頬を思い切り張っている自分がいた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　はい、次で完結できるでしょうか？
　ついにヒイロさん、苛立ち高じて殴ってしまいました。デュオ、自業自得です。綾雅はデュオファンだけどね、今回の彼は冷たいから殴られて当然というか、殴られて欲しかった（笑
　一番書きたいシーンが書けて、ちょっと満足しています♪