W2×1　【MiyabihimeA】

「・・・・困った」
　ぽつりと呟いて、手を湯の中に戻す。まだ完全に理解できていないが、どうやら三角の猫耳はちゃんと聞こえているらしい。普段より物音に敏感になっているのが、その証拠だろう。
　ぴちゃ・・っ。背後の音に振り返り、さらに溜め息が深くなる。
　尻尾―――そう呼ぶのが相応しいのだろうが、認めたくなかった。どうみても尾てい骨の当たりから、４０ｃｍはあろうかという黒い毛に覆われた”それ”が揺らめく。感情に反応するようで、小さく先が振られていた。
　試しに自分で意識して動かしてみると、その通りに動く・・・・やはり、間違いなく自分の体に直結している。確認した事実に、がっくりと肩を落とした。
「ヒイロ！　のぼせるぞ！！」
　外から声をかけられ、溜め息をつきながら湯船に沈んでいた時間を思って、慌てて立ち上がった。
　ふらっと足元が掬われたような浮遊感が襲う。
　マズイ！！　手を伸ばして縁を掴むより、倒れる体の方が早かった。


　　ガタンッ！！
　さすがに風呂の時間が長すぎると心配して声を掛けた途端、中から派手な物音がした。
「ヒ、ヒイロ？！」
　慌ててドアを開くと、ヒイロが倒れている。ゴツンと音が聞こえなかったので、どうやら頭は死守したらしいが、派手にお湯をぶちまけてうつ伏す姿に、デュオは顔色をなくした。
「大丈夫かっ？」
　微かに頷くヒイロに意識があるのを確かめると、後ろの棚からバスタオルを掴んで恋人を包む。少し無理な体勢だが、気合を入れて抱き上げた。ひねった状態の腰が痛いが、気の所為だと思うことにする。
　抱き上げたままリビングのソファへ向かい、そっと寝かせた。のぼせたのか、赤い顔をしているヒイロに苦笑すると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
　先ほどの音に、何があったのかと焦ってしまった。
「ほら、水・・・飲めそうか？」
　差し出すのに手を伸ばすが、起き上がれそうにない。ヒイロの様子に自分で口に含み、接吻けで流し込む。
「ん・・っ・・」
　飲み込みきれずに伝う水の流れと、鼻に抜けた甘い声に、デュオは接吻けを深めた。まだ熱い肌に煽られながら、黒髪に指を絡めて―――ん？
　不思議な感触に手を止めて、キスをした状態で器用に視線を流した。軽く伏せられた状態で小さく震える毛皮に、なんとなく愛おしくなる。そっと指で触れれば、ぴくぴくと跳ねるように動いた。
「デュオ・・耳、擽ったい」
　タオルだけに包まれたヒイロが、首筋に顔を埋めながら囁く。
「あと・・尻尾踏んでる」
　痛いのだと訴えられて、良く見れば、ソファに乗り上げた自分の膝が先を踏んでいた。黒く長い尻尾から下りると、パタンパタン振ってみせる。
「ゴメン、痛かったね」
　とりあえず謝罪するが、尻尾と猫耳から目が離せない。
「・・・・・・・寝ようか」
　それしか言葉が出ない自分に苦笑しながら、デュオはヒイロを抱き上げてベッドへ向かった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　なんでしょね。まだデュオは現実逃避しています。しっかり受け止めているようで、実はヒイロも現実逃避中――果たして、どうなることやら（苦笑