W2×1　【MiyabihimeA】

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　最愛のヒイロの寝顔を見つめながら、デュオは少し体を動かして朝日を遮った。まだ起こしたくない。
　長い睫毛が彩る顔は、整っていて人形のようだ。昔は無表情が張り付いて冷たく感じたのに、感情を取り戻したヒイロは誰よりキレイで華やかだった。
　最初に惚れたのは、あのキツい眼差しだ。射抜くような鋭さと正直な感情を宿した蒼い海の色が、本当に美しいと思った。手に入れたいと願い、嫌がるヒイロに纏わり付いて離れず、ようやく手に入れた。
　純粋すぎるヒイロがオレを受け入れてくれた瞬間の感動を、一生忘れることはない。
「・・ぁ、ュオ？」
　目を覚ましたらしい。寝起きに掠れた恋人の呼びかけに、デュオは柔らかい笑みとキスで答えた。
　チュッ、音を立てて唇と額、まだ閉じている瞼にプレゼントする。
「おはよう、ヒイロ」
　まだぼんやりしているのか、ヒイロは眠そうに目を細めると擦り寄ってきた。可愛い甘えを許しながら、邪魔にならない程度に黒髪を指で梳いてやる。
　明るい日差しが、地球の恩恵とばかりに外を輝かせる。廻る季節は春――――先月植えたばかりのバラも庭を華やかに彩っていた。
「そろそろ、起きる？」
　頷いたヒイロが億劫そうに身を起こした。肌に散るバラの花弁のようなキスマークに、もう一度唇を寄せる。触れるだけのキスが擽ったいのか、ヒイロは首を竦めて睨み付けてきた。
　眠る時は解く髪が、ふわふわとウェーブを描く。毛先を引っ張る仕草は、ヒイロの抗議なのだろう。
　昨夜堪能したばかりなのに、またヒイロが欲しくなる。限のない欲望をため息で吐き捨て、デュオはバスルームを指差した。
「シャワー浴びてきたら？その間に朝食用意するよ」
　にっこりと笑顔で告げられ、ヒイロの表情が綻ぶ。柔らかくて自然な表情は、ここ数年で恋人が身に着けた武器だ。この顔に逆らえない。
　最上級の名を冠するエージェントであるデュオが、唯一敵わない相手だった。そんなアンバランスさえ、楽しんでいるのだけれど・・・。
「メニューの希望は？」
「一昨日のカフェオレが美味しかった」
　基本的に甘党のヒイロからの要望を、軽いフレンチキスで受け止めた。
「了解。じゃ、すぐに用意する」
　まだシーツに裸体を包んだままのヒイロを振り返り、ドアのところでウィンクしてから消える。シャツを羽織り、下はジーパンだけという身軽な装いで、鼻歌混じりに冷蔵庫へ手を掛けた。
　手馴れた様子でキッチンの道具と、朝食の材料を用意し、シェフ顔負けの手つきで料理をこなす。
　基本的に料理が好きなデュオだから、朝食にしては懲りすぎたメニューが並ぶのは、いつものことだった。
　ちょうど作り終える頃に身支度を整えたヒイロが加わり、少し遅い朝食が始まる。
「なぁ、今日はホワイトデーだって、覚えてる？」
　熱いカフェオレに注意しながら口をつけるヒイロは、ダイニングテーブル脇のカレンダーに目をやり、今気づいた様子で頷く。
「じゃ、約束は？」
　覚えてるの？尋ねるデュオの楽しそうな顔に、ヒイロはどうしようかな・・と目を伏せた。覚えているのだけど、もし忘れたと言ったなら、この男はどうするのだろう。ちょっと意地悪をしてみたい気分だった。
　昨夜、散々鳴かされたのも影響している（笑）。
「・・約束？」
　聞き返せば、予想より肩を落としたデュオの姿に罪悪感が募る。だから、すぐに言葉を追加した。
「お前がくれるプレゼントに、頷けばいいんだろう」
　俯いた表情を両手で覆って隠しているデュオの、肩が揺れている。くすくす漏れる笑い声に、どうやら嵌められたのだと気づき、ヒイロはカップをテーブルに下ろすと、右手でデュオの髪をぎゅっと引っ張った。
「痛っ、痛いってヒイロ」
　笑いながら髪を取り戻すデュオに、軽く拳をお見舞いする。
「悪かったって」
　おどけて誤るデュオは楽しそうだ。
　こんな関係、１０年前に誰が想像しただろう。
「今日は仕事もないし、出掛けよう。こんな天気のいい日に閉じこもる必要ないぜ、ヒイロ」
　外を見れば、青空が広がっている。気持ちよい春の日差しと風が、２人を誘っているようだった。
「そうだな」
　同意したヒイロの唇に、軽いキス。甘く淹れたカフェオレの味がして、デュオは口元を綻ばせた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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2006年3月19日のイベントで無料配布した、季節限定企画本です。
※2006年6月25日のONLYイベントまで、無料配布の予定。