W2×1　【MiyabihimeA】

　謝罪はきちんと届いただろうか。浮かべたつもりの笑みはヒイロの目に映ったのか。
　舌で探したカプセルは、切れた唇の所為で血の味がした。噛み砕けば数分で命が消える劇薬を転がし、全身に走る激痛に顔を顰めながらも、ヒイロの顔を探し出す。
　最後に覚えておきたい。オレが一番最初に好きになった、蒼い瞳の色を・・・もう一度。
　ああ・・・やっぱり、綺麗だ。
　カプセルを奥歯で噛み潰し、透明のカプセル内に満たされていた顆粒がチリチリした針のように広がる。吐き気がしたのを抑え、無理やり嚥下した。
「毒物、か？！　チェックした筈だろう、どういうことだ！！」
　怒鳴り散らす青年の声に重なるのは、叱咤されたエージェント達の返答と、大きく鼓膜を刺激する心臓の音だった。耳の中に心臓があるような、まるで全身が心臓になったみたいに鼓動が大きくなる。
　チェックで発見された方は、昔『スイーパー』で持たされた青酸カリだった。しかしこれは新種のもので、少量でも確実に心臓を止めてくれる。半月ほど前、レイルに用意させたものだ。
　解毒剤は存在しない。
「デュオ、デュオっ！！」
　泣いているのかと思う、そのくらい切羽詰った声が耳元で響いた。ヒイロに触れようと指を動かしたつもりで、しかし体は全然言うことを聞かない。
　ごくりと動いた喉に灼けるような激痛が走り、反射的に体が毒物を拒絶して、吐き出そうと丸くなった。気づかないうちに横たえられていたらしく、上から覗き込むヒイロの存在を感じる。
　げほ、けほっ、噎せ込んだ喉も背中も、何より胸の弾傷に響いて心臓を掻き毟りたい苦しさだった。
「水だ、早くっ！」
　叫んだのはヒイロで、周囲がそれに反応して動き出す。流し込まれた水を飲み込む力すら失いつつあるオレは、口元に触れた柔らかい何かが促すままに水を受け入れた。
「デュオ、生きろ。俺を置いて逝くな」
「・・ゴメン・・こ、な筈じゃ・・・なかったの、に」
　うぐっ、げほげほ。
　咳き込んだ勢いで少し楽になる。
　冷たい水のお陰だろうか・・・・。
「―――・・愛し、て・・・・る」
　声はちゃんと響いたのか。
　ヒイロに告白は届いているんだろうか。これが最後の告白になるから・・・きっと。
　大きく息を吐き出せば、急に体が楽になった気がした。ヒイロの蒼い瞳がいっぱいに広がって、この心まで染め上げていく。
　笑顔を浮かべていた。
　こんな状況で、こんな場所にヒイロを残していくのに、何も不安はない。ヒイロなら大丈夫だ、オレが認めたヒイロ・ユイなら殺されたりしない。
　ただ・・・本当にゴメンな。
　一緒に暮らす約束、反故にしちまって・・・。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....