W2×1　【MiyabihimeA】

「大したことない癖に、仰々しく見せたがるのさ。おまえはここ、初めてだっけ？」
　頷くシフェルの視線が建物や装飾品に注がれているのを、苦笑交じりで揶揄う。慌てて視線を戻せば、デュオはすでに先を歩いていた。
　彼にとっては”故郷”と呼べる場所―――懐かしさを覚えるような、可愛い感覚は持ち合わせていないらしい。ついでとばかり建物を攻撃しながら歩く姿は、破壊の化身だった。
「お！　見た事ない卵だな・・」
　通常の天使の卵は白く、仄かに光っている。しかし、奥の奥に隠されていた卵は―――不思議な蒼を湛え、波のように揺らめく光を放った。近づくに連れて波動が強くなり、シフェルは頭を押さえて蹲る。
「おまえは近づくな。これは無理だ」
　堕天使である自身にさえ、眩しいと感じさせる。実際にはほとんど光っていない卵だが、近づく者を威圧するような神々しさを纏っていた。
「ふん、あのバカのお気に入りかな？」
　にやっと笑って、左手の鎌を握り締める。神をバカ呼ばわりすると、一気に振り下ろした。
　―――パリン・・。
　瑠璃が砕ける音に似て、澄んだ音色が響く。
「今頃来たか・・・遅いんだよ」
　嘲るデュオが鎌を片手に、護衛の天使を牽制する。
　卵の中身を楽しみと見守るデュオに、駆け込んできた智天使（ケルビム）達が顔色を失った。一番奥の間で大切に育てられてきた卵は割れ、その前に立つ元熾天使（セラフィム）の悪魔―――神をも恐れぬ所業を、残虐な笑みを浮かべて為したデュオに、炎の剣を構える。この上は、卵の中の御方を守る為に、全力を尽くすのみだった。
　向けられた剣に目を細め、元熾天使とは思えない残忍な笑みを口元に浮かべる。
「・・死に急ぐ奴ばかりだな」
　　シャラン・・
　美しい音に振り返ったデュオが見たのは、卵の蒼い殻を不思議そうに摘む少年だ。天使には存在しない黒髪が、途中で強引に殻を割られた弊害なのか。それとも神の寵愛の印なのかは不明だが、蒼い瞳は神の好みによるものだろう。
　事実、堕天するまでのデュオの瞳の色と同じだ。今は青紫に染まったデュオの瞳も、昔は鮮やかな蒼だった。熾天使はすべて蒼い目を持ち、金色に近い光色の髪を持つのだ。
「熾天使・・？」
　疑問符がついたのは、少年の黒髪故だ。
　デュオの声に反応して顔を上げ、目が合うなり・・・・手を伸ばす。怯えるでもなく、当然のように伸ばされて指を、反射的に掴んでいた。天使であれば、目覚めたばかりでも悪魔の気配を嫌う。なのに、少年はデュオを嫌悪する様子をまるで見せない。
　首を傾げるデュオの三つ編みを見つけると、表情を和らげて掴んだ。ほとんど無表情に近いのに、なぜかデュオは少年が微笑んだと感じる。
「おまえ、名前は？」
「・・・なま、え・・・？」
　卵の時点で名と役目を与えられる天使であるにも関わらず、少年はただ不思議そうに言葉を繰り返した。少し考え込んで、突然翼を広げる。３対６枚の白い羽がふわりと視界を塞いだ。
「・・知らない」
　言い切った少年は羽を動かして、デュオに抱き着いた。受け止めれば、まるで羽毛のように軽い。
「ヒイロ様！」
　叫んだ智天使がデュオへ剣を向けた。慌ててシフェルが間に障壁を張るが、天界第２位の智天使相手に防げる確証はない。両手が塞がっているデュオに、足元の鎌を拾う余裕はなかった。
「危ない、デュオさんッ！！」
　目を開けていられない程の光が、周囲を包み―――音がすべて消えた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　やっとヒイロに出会えたデュオです。
　きっと一目惚れでしょう！！←確証あり！（笑