W2×1　【MiyabihimeA】

「シフェル・・」
　突然呼びつけられ、木陰で待っていた青年は静かに姿を現した。微かな気配で確認していたヒイロに驚きはない。覚悟を決めて顔を上げれば、ブロンズ色の髪の青年は、長身を折って頭を下げた。彼の表情は同情を浮かべ、ある程度の事情は知ってるのだと告げている。
「もういい、下がれ。シャトルの準備を頼む」
　ひらひらと手を振って追い払う仕種をされれば、さすがに状況を察しない訳にいかない。ついに捕まったヒイロは気の毒だが、助けることが不可能な以上、黙って命令に従うしかなかった。
　シフェルの気配が完全に遠ざかると、デュオはヒイロの顔を覗き込む。
「そんで？　契約の条件を聞こうか」
　内容・・ではなく、条件と表現したのは理由がある。ヒイロから出される契約内容はわかっていた。自分の周囲の人間を殺さないで欲しいと願うのだろう。他人の命をそこまで重要視するヒイロの気持ちを理解しながら、それでも取引の材料として利用するデュオは、まさしく死神と呼ばれるに相応しい人間だった。
　だから”条件”なのだ。ヒイロが出してくる交換条件にだけ、興味があった。
「・・・・この体をお前にくれてやる。だから・・」
「だから？」
　鸚鵡（おうむ）返ししたデュオの声が、楽しげに響く。
　俺の周囲に手を出すな・・だろ？
　笑みを浮かべて続きを待つ死神は、優しげな所作で黒髪に手を伸ばした。触れる柔らかな毛を指先に絡めて、愛おしげに梳く。
「お前のすべてを俺に寄越せ」
　意外な事を吐き出した唇を、じっと見つめる。赤く色づいた魅惑的な唇が紡いだ言葉は、予想の範囲を超えるものだった。
　オレに周囲の人間を殺すなと命じて、交換条件でヒイロを得られると思ったのに・・・？
「それって、どういう意味？」
　素直に聞き返したデュオの怪訝そうな表情に、ゴクリと喉を鳴らしたヒイロは緊張に乾いた唇を湿らせた。ちらりと覗いた舌が、扇情的な雰囲気を醸し出す。
　誘われた気がして、接吻けようと抱き寄せるデュオの腕を、やんわりとヒイロが拒む。
「・・・・・？」
「この体は、契約の条件だ」
　契約が成立するまで、触れる権利は与えない。
　冷たく言い放つヒイロの蒼い瞳を見つめ、デュオは唖然としたが・・すぐにクスクス笑い始めた。まさか、ヒイロが自分のキスを拒むと思わなかったのだ。明らかに自分が有利になるよう、画策してきた。にもかかわらず、ヒイロは輝きを失わない。
　―――堕ちて来ないなら、引き摺り堕とせばいい。
　強かなヒイロの一面を喜ばしく感じながら、得意の話術で交渉を再開した。
「契約の条件が、50/50（フィフティ・フィフティ）じゃないだろ」
　口角を持ち上げて、皮肉気な表情を演出しながら、肩を竦める。見せ付ける大袈裟なジェスチャーが、厭味なほど似合う。
　長い三つ編みが揺れて肩を滑り、銃を扱う長い指が軽く弾いた。
「ならば、お前の条件は？」
　覚悟を決めたヒイロの促しに、死神が笑みを深めた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　ようやく、原稿地獄から脱出・・しそうなので、秘姫にお礼を云って戻ってきました。
　う～ん、この話は好きだな・・・設定も内容も素敵♪　メチャクチャ、綾雅好みです！！