W2×1　【MiyabihimeA】

　本来、精霊召還は大技（おおわざ）に分類される。体力と霊力を大量に消耗する術であり、彼ほど簡単に使いこなす者は神族でも極稀だった。
　黒い翼に頭（こうべ）を垂れた精霊を見回し、デュオは新たな詠唱を始める。
　＜我が求めに応えよ。1000年の刻を紡ぎし呪いを解き、鍵たる沈黙の女神を光の淵へ＞
　自分の翼から抜いた羽根を、逆毛立った赤毛の青年へ。彼が恭しく触れた羽根が鮮やかに燃えあがった。続いて、流れる銀髪の女性が白い手に羽根を受け取り、透明の剣に変化させる。緑がかった青い髪を短く駆り込んだ少年は、羽根を弓矢に作り変えた。最後に、幼い顔立ちの金髪の少女は、大ぶりの百合を誕生させる。すべてが、デュオの4枚の羽根から生まれたアイテムだった。
　彼らの仕事を確認して、満足そうに頷いたデュオはシャツをはだけると、己の胸に爪で十字架を描く。血のこびり付いた爪に舌を這わせ、にやりと笑みを浮かべた。
　＜神翼と我が血を代償とし、召還する―――デスサイズよ、この手に！＞
　天高く伸ばした左手に、漆黒の柄と鋭い三日月の刃を持つ鎌が現れる。
「うそ・・・・」
　呟いたのはミカエルだった。レイルは目を細めただけで、何も言わない。噂には聞いてたが、実際に見るのは彼らも初めてだった。この場で、デスサイズと名づけられた鎌を見知っているのは、デュオ自身とシフェルのみ。
　久しぶりに手にした漆黒の柄は、すんなりと肌に馴染んだ。まったく重さを感じさせない鎌は、唯の武器ではなく・・・意志を持つ生命体に近いものだ。自我がある為に、己を使役する主を選ぶ。
「準備は整った・・」
　表情を引き締めたデュオがデスサイズを一振りすると、その刃先に4人の精霊が恭しい仕草で、先ほどから手にしている物を差し出した。
　火炎、氷の剣、風の弓矢、大地の百合・・・4大精霊がもつ力の象徴が、三日月に似た銀色の刃に触れて消える。吸い込まれるように消えた4つのアイテムを残し、精霊は静かに後ろへ下がった。
　何か歌が聞こえる。柔らかくて哀しくて・・とても美しいメロディは、どうやら精霊達の口から零れ落ちているらしい。ミカエルにも意味のわからない唱和が、足もとの闇の胎動を押さえていた。
　静かに刃を振り翳したデュオが、まるで演舞のように優雅に鎌を操る。
　　――――ピシッ
　聞こえた音は、卵の殻が割れる音に似ていた。脈打つ3つの球体にヒビが入り、一気に砕けて散る。
　　パリン。
　美しい玻璃（はり）が砕ける音が響き、闇が色を変えた。
　我が身を守るように体を丸めた3つの人影が動き、ゆるゆると輝きを増す。開放された輝きと魔力を纏い、3人の魔王が目を開いた。
「久しぶりですね、デュオ」
　流れる金髪とアクアの瞳を持つ青年は、まるで少女のように優しい顔立ちをしている。言葉も丁寧だが、どこか油断出来ない雰囲気を漂わせていた。
「五飛・・」
　一番背の高い男が気になるのは、開放されたことより隣の黒髪の青年らしい。肩にかかる漆黒の髪をひとつに結んだ青年は、気の強そうな黒曜石の瞳を細めて上空のデュオを睨みつけた。
「貴様・・・・」
　封じたデュオへの苛立ちなのか、あっさりと術に絡め取られた己への怒りなのか。五飛と呼ばれた青年は唇を噛んだ。そんな五飛に手を伸ばし、触れられる事実に男はほっと安堵の息をつく。
「カトル、トロワ、五飛・・・手間かけて起こしたんだ。感謝しろよ」
　にやにや笑いながら厭味を口にしたデュオへ、一番最初に噛みついたのは五飛だった。
「誰の所為でこうなったと思っている！！」
「おやおや・・」
　肩を竦めて冷やかすデュオと同じ高さまで上った五飛だが、手を出す前に止められてしまう。先ほど彼を気にしていたトロワが、顔が隠れるほど長い前髪の間から、優しい緑の瞳で諭した。
「やめておけ。また1000年眠る気はないのだろう？」
　その言葉に、五飛は渋々といった表情で溜め息をついた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....


　

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　はい、魔王様方登場です！！
　予想通りでしょ？　トロワとカトルと五飛。この3人も登場させるつもりで、ちゃんと役割を用意してたんだから♪　ところで、「魔王様」を入力して「間王様」と出るのですが・・・間男みたいで、いやぁ～(T_T)