W2×1　【MiyabihimeA】

　素早く差し出されたデュオの腕が、倒れこむサリファを支えた。翼を出した影響で、本来の姿に戻ったデュオの長い髪が肩を滑り落ちる。三つ編みは完全に解けていた。
「大丈夫か？　まだ眩暈がするだろ」
　外側の傷は癒せるが、傷による貧血症状は消せない。失われた魔力を回復させることも出来ないのだ。消えたのは、痛々しい傷口だけだった。
「・・・平気なのか？」
　心配が滲んだヒイロの問いかけは、サリファでなくデュオへ向けられている。まだ青い顔色で頷く彼女を確認し、振り返ったデュオが微笑んだ。
「ああ、基本的に傷による貧血と・・少し毒を盛られてたらしい。･･平気、毒抜きもしたから」
　毒と聞いて顔色を変えたシフェルとヒイロに苦笑し、死神の名に似合わぬ優しい言葉を向ける。ほっとしたヒイロが頷いて緊張を解いた。
「ところで―――何がどうなったら、こんな状況になるんだよ」
　レイルを追っかけていったのは知ってるが、彼らがサリファをここまで痛めつける理由はない。赤い髪の傍観者たる青年との付き合いが長いこともあり、彼の人と為りは熟知していた。
　アイツじゃない！
　確証に満ちた視線を向けた。
　一応兄となるシフェルへ、突き放した口調で説明を求める。ブロンズ色の髪を風に揺らしたシフェルが、口を開きかけた直後―――。
「見つけたぞ！」
　空中から聞こえた声に、死神は強い眼差しを向けた。敵意を漲らせた声の主は、地上5ｍほどの高さに浮いている魔物だ。上級魔性の中でも実力者に分類されるだろう。
「デュオさん、彼ですッ！」
　失礼にも指差したシフェルの態度に、謎が謎でなくなっていく。
「・・・おまえか」
　呟いたデュオの気配が棘々しく変化した。
　くいっとブラウンの髪先を引っ張ったヒイロに視線を戻し、すぐに立ち上がる。指の間を擦り抜ける長い髪に、ヒイロは唇を噛んだ。
　止められない。デュオは負けないからその心配はないけれど・・・彼の同族殺しを止めたくて・・・・それでもサリファを傷つけた魔物を許し生かしておく程、甘くない。複雑な心境を噛み締めた唇に滲んだ血の味で誤魔化した。
「結界を張る。今度こそ守り切れ」
　ヒイロとサリファを任せると言い切られ、シフェルは覚悟を決めて頷いた。普段はサリファに任せる結界を担当しながら、さらに戦いに手出し無用と告げるデュオは、感情が高ぶっているようだった。
　ゆらりと揺れる髪は、横に流れる風の動きも重力も無視して宙に舞う。炎のように空へ向かう毛先が、生き物に似た動きで漂っていた。
　溢れ出る魔力と霊力がぶつかり合い、デュオの体を覆う一種の結界となる。強大過ぎる力は気流を乱し、上空へ髪を揺らめかせる原因だった。
「死神デュオだ。間違いない」
　確証じみた声に呼ばれたのか、数名の魔物が周囲に出現した。レベルが高い魔力を証明する魔物達の容姿を見やり、デュオは口元を歪めて笑う。作られた表情は、彼らに恐怖心を呼び起こした。
「オレの部下に手を出すなんて・・・随分愚かな真似をしたもんだ」
　普段の青紫より色の濃い紫藍に染まった瞳が、物騒に眇められる。言葉以上の不快感を示す表情が、魔物の背に冷たい汗を齎した。ぞくりと走った感覚を表現するなら、恐怖心が一番近い。それでも魔物達は引こうとしなかった。
　彼らには、重大な役目があるのだ。”あの方々”を黄泉返らせる為に、命を捨ててもデュオを拘束する必要があった。
　ふわりと同じ高さに浮いたデュオの黒衣の裾が、乱れた気流にはためく。長く伸びた爪を舌で辿り、左手に力を集中させる。背の黒い翼が大きく広がった。
「・・覚悟しろよ」
　にやりと口元を三日月の不吉さに染めた死神に、誰もが言葉を失っていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　デュオさんが攻撃モードになりました。魔物の皆さんがケチョンケチョンにされるのはともかく、”あの方々”と称される複数形の存在が気になるでしょう？　気にならない？　そんなことないでしょ、気になるでしょ？！　←必死