W2×1　【MiyabihimeA】

　真実を見極められないほど濁った瞳と、ふさがれた耳、踊らされる事実に気づかず吐き出した残酷な言葉の棘。ナイフより、銃なんかより、オレの心を強く殺す。
　・・・守ろうとしたんだ、オレは・・。
　統一連合やOZの支配―――誰もが嫌がっていた状況から、誰も立ち上がらないコロニーを守る為に。
　確かに身勝手な決意だったさ。でも、支配に気づけないほど腐敗していた故郷に、自我を植えつける事には成功した。
　守りたかった・・この思いは、大人では理解できない。この体という器はもちろん、命も、感情も、死神には必要ないと切り捨ててきた。笑顔と言う仮面の下で、痛みに脅えるこの心さえ・・切り裂いたのだ。
　最初から、感謝されると思ってた訳じゃない。
　”死神”になった時点で、生きて帰れると思ったこともなくて―――ただ純粋に・・守りたかった。
　7歳で躰を売って、いつも銃声に脅え、いつしか自分の手も銃を握って、死んでいく人間なんてゴミくらいにしか思えなくなっていた。スイーパーに拾われて、でも人殺しである事実に変わりはなくて、もっと上手く人を殺せる方法を訓練されて生きてきた。
　誰よりも殺すことが上手で、躊躇わなかったから・・オレは今こうして生きていられる。
　コロニー開放の大義名分を与えられ、人殺しの性（さが）を肯定され、歪んだ人格を矯正する必要もない場所で、オレは殺戮者であり続けた。罪悪感なんて感じる暇もないほど、任務は忙しくて大変だったから。
　でも、望んだのは―――。
　心から安心して眠れる場所と、他人を殺さなくても生きていられる環境を作りたかっただけなんだ。オレみたいな・・・”死神”なんて、もう要らなくなるように・・したかっただけ―――。
　物心ついた頃、孤児と知った。誰も居なくて、寂しくて、泣いて泣いて・・・だが、自分で生きる術を身につけるしかない。じゃないと死んでしまうから。生き残ることに必死だったけど、後で親は戦争で死んだのだと聞かされて、統一連合が憎くなった。
　戦争の存在も、兵隊も、戦争を起こす人間も、それに甘んじて耐えるだけの民衆も！　とにかく憎くてしょうがなかった。
　気づけば両手は血塗れで、拭っても洗っても赤い色は取れなくなっていたから―――いつしか隠すのをやめた。もう気にするような心がなくなっていたんだと思う。
　マヒした感覚で、必死に選んだ結果だ。ガンダムに乗ったことを後悔しない。
　平和を齎す為に命を狩ったのも、ガンダムで戦った事実も、死に掛けた時ですら・・・後悔はなかった。むしろ死に掛けた時は、ほっとしたくらいだ。
　そんなオレに、やっと希望の光を見せてくれたのは”ヒイロ・ユイ”だった。殺戮機械だと自分を蔑むことすらしない彼の、その強い意志と心に惹かれた。
　自爆すら、任務なら躊躇わない。
　最初は自分を大切にしない奴だと思った。オレには出来ないことを、さらっとやってのけるヒイロが大嫌いだった。いつ頃だろう、好きだと気づいたのは・・。
　ああ、生きていたと知った瞬間だ。あの一報で涙が出て・・記憶にある限り、初めて他人の為に泣いたんだ。
　他人の為に泣ける自分を知って、驚いて・・・次に嬉しくなった。まだ人間らしさを持っている自分を、なんとなく許してやれそうな気がして、涙が止まらなくなった時に、ようやく自覚したんだ。
　ヒイロが好きだ。
　告げても、あっさり無視されたけど・・・。
　苦にならなかった。自分に近い存在だと思ったから、彼の行動のすべてが任務を基準にしているのも理解できる。だから、ヒイロの無視は痛くなかったのだ。
　心を傷つけられる行為も、相手によって傷にならないことを知って、笑顔が戻ってきた。
　オレの表情はほとんど作っていて、無理はしていないけれど、やはり気づけば本心が顔に出てない。哀しくても、傷ついてても、笑顔を作る癖がついてしまって、溜め息すら隠してしまう。
　大袈裟なほどに感情を示して、でも100％作った感情でしかないから、カンのいい人間には嫌われたり無視されたりした。大抵の人間は気づかないから、騙されている。そんな中でヒイロは、やはり気づいてくれていたのだろう。無視もされたけど、自然な笑顔を作れる数少ない相手になっていた。
　オレにとって、誰よりも失いたくない。本当に大切な相手で、コロニーと引き換えても・・・構わないくらいの人―――。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....