W2×1　【MiyabihimeA】

　最初に欲しかったのは、何ですか？
　本心から欲したのは、誰？！
　何を与えられれば、あなたは満足するの？？

　すべてがすべてにおいて間違っている世の中だから・・・何を得ても、満足出来ないのでしょう。
　私が私であり続ける限り―――決して、あなたを満たしてあげられない・・・。
　≪・・ごめんなさい≫
　それしか、もう言えないから・・本当にごめんなさい。
　満たして上げられなくて・・・。
　いずれ、あなたを満たせる人が現れるように―――私は祈ってあげるだけ、そのくらいは出来るかしら？

◆◇◆
　ひどく昔の夢を見た。
　声だけの夢で、でも姿も状況も思い出せる。まだ4年も経っていないけど、考えてみたら16歳なんだから・・人生の1/4だった。だから、やはり昔と称するのが似合うだろう。
　なんにしろ夢見の悪さは頂点で・・・オレはしょうがなく、シャワーを浴びようと起きた。びっしょりかいた汗が気持ち悪く、理由を考えて―――夢の所為だけじゃないことに気づく。
　もっとも・・・ちょっと遅かったが。
　大きめのベッドに一緒に寝ていたヒイロは、とっくに目を覚ましていたらしい。不機嫌そうに眉を寄せていた。黒髪は乱れていて、蒼い地球色の瞳を僅か眇めて睨みつけてくる。
「ああ、悪い。もしかして起こしちゃった？」
　言いながら、誤魔化すためのキスを額にひとつ。前髪を掻き上げ、しっとりと白い肌に接吻けたのに、ヒイロの顰めた眉は解かれない。
「あ～らら、ご機嫌損ねちゃったかなぁ」
　おどけてみても、ヒイロは眼差しを緩めなかった。
　シーツに包まっているが、その躰には思い出せる限りでも、両手両足に余る数のキスマークがある。もちろん、昨夜のオレがつけた痕だが・・・。
「・・何を魘（うな）されていた」
　思ったより冷静な声に、憮然とした雰囲気が混じる。敏感にヒイロの感情を聞き取って、オレは肩を竦めて溜め息をついた。
「ゴメン、寝られなかったのか・・」
「誤魔化すな！」
「そんなに怒るなよ・・・ちゃんと言うから」
　両手を挙げて降参のポーズをとりながら、ベッドの上で振り返ってヒイロを抱き締める。
「昔の女の夢・・」
「・・・・・・・」
　嫌そうな顔をするから、やっぱりと思う。反面、あからさまに表情へ出されると、嫉妬してくれてるの？　なんて自惚れたくなった。
「・・オレが12歳になった頃、抱いた女なんだけど・・・マジにほれられちゃったんだ。しつこい女だったけど、あれ？　変だなぁ、・・・なんで今頃思い出したんだろ？？　だって、今のオレにはヒイロがいるのに」
　首を傾げて、途中から独り言になってたが、自分では気づかなかった。気づいたのは、ヒイロが接吻けてきたからだ。
　触れただけで離れようとするのを、無意識にヒイロの頭を抱えて、さらに深く接吻けを貪った。
「デュオ、続きは？」
　自分からキスを仕掛けておいて、ヒイロは平然と話の続きを促す。なんとなく、このまま押し倒していい雰囲気に♪なんて思惑は、欠片も届いていなかった。
「え～っと、そうそう。死んじゃったんだ・・っけ？」
　ふぅ・・盛大に溜め息をつかれ、つい眉を顰める。聞きたがったわりには態度が・・いや、ヒイロだからしょうがないのか？
「お前のまわりは、そんなのばかりだ」
　意味が分からなくて、ヒイロの頬を撫でながら天井の方へ視線を泳がせた。
「・・死体ばっか、って意味かな？？」
「なんでそう死人が多い・・」
　呆れた表情で言われ、指先で整えてやった前髪に接吻ける。そのまま鼻の頭にキス、最後に唇を塞いだ。
「だって”死神”だもん！」
　上目遣いに、ヒイロの蒼い目を覗き込む。笑顔を添えたが、嫌そうに引き離されてしまった。
「え？　ヒイロは大丈夫だよ、大切な人だから。死なせたりしません」
　死神が嫌で引き剥がされたのかと思い、言葉で補足する。しかし彼はベッドから降りて、バスルームへ行ってしまった。
「ヒイロ、もしもし～？　ヒイロ～？？」
「うるさい、少し静かにしていろ。すぐに戻る」
　ぴしゃんと鼻先でドアを閉められ、自分もシャワーを浴び損ねていたことに気づいたが・・・今入っていくのはかなり勇気がいる。
　やっぱり・・・後にしよう・・・。
　ベッドの上に横になって、さっきの夢を反芻してみる。なんか、彼女が言ってたけど・・・・。
　そうそう、最期の時の言葉だったっけ。
　”オレに殺して欲しい”って要望だったから、ちゃんと殺してあげたのに、何だって今頃になって夢に出てくるんだ？
　≪・・ゴメンなさい≫
　謝って、彼女はグレーの目を閉じた。だから、オレはトリガーを引き絞って、
　・・・・・あれ？　それからどうしたんだっけ？？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....