W2×1　【MiyabihimeA】

　ずきりと痛みが走る。あんなに待ちわびた告白なのに、デュオは痛みしか感じなかった。
「死なせない・・オレは嫌だ。10年なんて短すぎるッ！　絶対に、死神の名にかけて死なせたりしない！！」
　ヒイロが抱きつく。受け止めたデュオは何度も、恋人の黒髪を撫でた。優しく、ただ優しく。
　自分の本気を伝える為に、デュオは必死で言葉を探した。今までのデュオでは考えられないほど、真剣に言葉を探し選ぶ。
　いつだって、言葉遊びは得意だった。悩まなくてもすらすら出てきて、それは重宝していたし、自分の長所だと思っていたけれど・・本当は短所だろうか？
　簡単に出てくる言葉は、本心よりも打算を含んだものが多くて―――ちゃちな言葉をヒイロにあげられなかった。
　言葉一つで、彼が壊れてしまいそうで・・・。言葉をこんなに怖いと思ったのは、おそらく初めてだろう。
「もし・・どうしても」
　言いかけて、デュオは躊躇った。
　伝えなければならない、偽りない気持ち――だが、これはヒイロの負担にならないだろうか？
「もしもだけど・・ヒイロが死ぬ時は―――オレも一緒に逝く。おまえの最後の一息を看取ってから、追いかけて。必ず追いつく！　それまででもいいから、おまえのすべてをオレにくれ」
　ヒイロは震えた唇を、両手で隠すように覆った。何度も大きく首を振って、デュオの想いを否定する。
　死なせられない！
　デュオは俺の大切な、初めての宝物だから。気持ちは嬉しい、総てを投げ打っても構わないほどに嬉しいけれど・・・彼を巻き添えになんて、絶対出来ない！！
　その思いが溢れる瞳に、デュオは切ない表情でヒイロへ言い聞かせる。
「頼むから、おまえがいなくなっても生きろ・・なんて、残酷なことは言うなよ。オレにはそれ以上の拷問はないんだから・・・オレを好きなら、せめて一緒に逝く権利くらいは・・くれてもいいだろ？」
　頷くしかないではないか。
　ヒイロは溢れる涙を、デュオの胸に押し付ける。デュオの鼓動がいつもより早くて、想いの強さが直に伝わってくる気がした。
　こんなに想われて、その気持ちを否定なんて・・出来るわけない。
　非情になった方がデュオの為なのは、分かっている。一緒に連れて行くなんて、エゴイストな考えは捨てなければ・・心では気づいていた。
　理性では正しく理解しているが、感情はデュオを欲しているんだから・・・しょうがないだろう？
　お互いに気持ちを晒して、庇いあって。
　俺も、デュオも。
　これが最初で最後の・・・自分の為の我が侭なんだから。
『主よ。生と死とをすべて2人の上に分かち給え』
　デュオの唇だけで声のない厳かな誓いが、温もりを通して伝わってくる。
「俺なんか、欲しいだけ・・好きなだけくれてやる・・だから」
　ヒイロの言葉を引き継いで、デュオは軽い接吻けを交わした。
「地獄の果てまで追いかけるさ」
　逃がさない！
「欲しいのは、おまえだけだ」
　どちらからともなく、指を絡める。相手を束縛する気持ちが、指に力を込めさせた。

　もしかしたら、あの声はデュオだったのかも知れない。ふと、ヒイロはそう思った。
　夢の中で何度か警告された。自分の中の想像の産物だと思っていたが、未来のデュオから過去の俺への・・あれはメッセージ。
　ずっと見守っていてくれたのか？

　想いを込めて、神聖な誓いの接吻けを―――。

　　　残された時間はあと僅か。
　　　恋する2人に、運命はあまりに過酷過ぎた。

　―――だから、
『全知全能なる、主よ。
　初めて、心からの願いを祈りに託します。
　愛おしい人とともに、命果てる事をお許しください。
　そして、願わくば、生と死とを、すべて2人の上に分かち給え。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　アーメン』

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　死神の神話へ続きます・・・・・・。