W2×1　【MiyabihimeA】

　新入りエージェントの訓練先として東アジア地区を指定された五飛は、数名の部下を連れて遺跡がある森にいた。新入りとはいえ、すでに一通りの格闘や射撃訓練は済んでいるメンバーばかりだ。教官として五飛が教えることは、実戦での感覚を見つけさせることだった。
　だが、まさか本当に実戦を体験させるとは・・・。
　振り返った先は、動揺したエージェントが数名――――この状態で使えそうなメンバーはいない。
　訓練に訪れた地区で、未確認のテロ組織と遭遇してしまった。一応本部に報告はしたが、その直後に通信機を失い、武器も訓練ミッション用で心もとない。すぐに増援が来るとしても、いつまでもつか・・・。
　プリベンター（preventer）の名の由来は妨害する者であり、テロや戦争の火種を消すことが目的の組織だ。その組織が、逆にテロ組織に捕捉される事態は避けたかった。
　妨害する者が妨害されていては、本末転倒もいいところだ。
　自分1人なら何とでもなった。
　元ガンダム・パイロットの肩書きをもつ五飛なら、単独で敵を壊滅させるだけの能力を持っている。しかし後ろで震えている連中を置き去りにして、人質にでも取られたら厄介だ。
　だが時間はない。敵に包囲される前に脱出を考える必要があった。
　しかたない。
　溜め息をついた五飛の手が、慣れた所作で銃のカートリッジを挿入する。安全装置を外して遊底を引いたのち、再びカートリッジを取り出した。銃の中に装填されて1発減った弾丸を補充すると、がしゃんと音を立ててカートリッジを収める。
　一連の作業は素早く、後ろのエージェントたちは顔を見合わせた。
　東洋人は若く見える。それゆえに飾り物の教官と侮っていた彼らの表情は、五飛を認めるそれに変わっていった。この場で頼れるのは、五飛だけなのだ。
「あの・・・僕らは何を・・」
「ここから動くな。自分の身くらい守れるな？」
　気圧されて頷くメンバーの中、1人だけ落ち着いた様子で首を横に振った。薄茶の髪の青年は、普段から他のメンバーと話をすることもなく、ただ黙々と訓練をこなしていた。身に付けた技術は訓練生の中でも飛び抜けている。
「俺は同行します」
　じっと見つめてくる黒っぽい瞳を、五飛の強い眼差しが探るように覗き込む。しばらく無言で視線を交わした2人だったが、五飛はこくんと頷いた。
「よし、来い」
　この場面で落ち着き払った青年は、足手纏いになる心配はいらないだろう。五飛は銃を右手に、音を立てないよう注意しながら足を進めた。後ろをついてくる青年、セドもほとんど音を立てない。かなり優秀な部下に、ちらりと視線で合図を送った。
　同時に足を止めた2人の前を、武装した男が歩いていく。見張りなのだろう。退屈そうな男が背を向けた瞬間、五飛の小柄な体が飛び掛った。一瞬で首を絞めて落とすと、そっと横たえる。背後で銃を構えたセドが、五飛を援護する体勢を整えていた。
　合格だ。
　まだ実戦を経験させていなかった青年だが、これだけ動ければ即戦力になる。薄く笑みを浮かべた五飛は、満足そうに頷いた。

「通信は回復したか？」
「いえ・・」
　厳しいやり取りが繰り返されるプリベンター本部ビルで、トロワは無言のまま装備を整えていた。五飛率いる訓練ミッションが、予想外の敵と遭遇した直後に途絶えた通信は、本部のエージェントを騒然とさせる。
「旦那が出撃するんだ？」
　明るい口調でドアから声を掛けられ、トロワは視線だけを向けた。開いたままのドアに寄りかかった青年は、長い三つ編みを背で揺らしている。廊下の照明が明るく、室内にライトがついていなこともあり、彼の表情は見えなかった。
「お前も準備しろ」
　廊下からヒイロの声が聞こえ、三つ編みの主は肩を竦めて室内に踏み込む。慣れた様子でロッカーの銃を確認し、次々と弾薬などを選び出して身につけ始めた。
「了解、人使い荒いぜ・・ホント」
　言葉より真剣な眼差しは、五飛を心配する色を浮かべている。ガンダム・パイロットと言う最高のエージェントを投入した救出劇は、今まさに始まろうとしていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　はてさて、訓練中だった五飛と役立たずな仲間達（笑）はどうなるのでしょうか？　そして役に立つけど愉快な仲間達（大笑）は間に合うのか？　彼らの出番を五飛が残してくれるのか？？？
　問題山積ですね～。