W2×1　【MiyabihimeA】

「あの、質問があるのですけれど・・」
　遠慮がちにサリファが声を上げると、シフェルは穏やかな緑の瞳を和らげた。どうぞと促す所作で微笑んで頷く。
「どうしてデュオ様が開放されたとき、一緒に自由になれなかったんですか？？」
　同じ封印だったのなら、一緒に開放された筈だ。
　確かに・・と納得したヒイロも、答えを求めて視線を向ける。すると、隣から身を乗り出したデュオが、苦笑しながら口を開いた。
「逃げてたんだよ」
「逃げた・・・？」
　ヒイロの疑問を肩を竦めて受け取ったデュオの口元に、少し柔らかい笑みが刻まれた。皮肉な色も残酷な気配もない、苦笑より優しい表情だ。
「怒りと殺気に満ちたオレと同じ空間へ閉じ込められたんだぜ？　そりゃ、逃げたくもなるさ。自分で自分を封印して、身を守ったってワケ―――正しい選択だったな。あのままじゃ、オレはシフェルも殺してただろうし」
　悪びれる様子のないデュオに、兄であるシフェルも静かに同意する。当時の状況を遠巻きながら知っているサリファは苦笑し、ヒイロは少し眉を顰めた。
「・・本当に物騒な奴だ」
　呟きを聞きとがめたデュオだったが、ヒイロの声に棘が含まれていないから、笑みを深めて受け止める。
「あの頃は想像も出来なかったですね。デュオさんに魔名を捧げる存在が出来るなんて・・それに、この人に忠誠を誓うサリファさんも」
　もう壊れてしまうのだろうと思っていた。自己崩壊してしまいそうな恨みと怒りの深さを思いだし、そう告げたシフェルへ、デュオは「そうだな」と小さく同意する。
「ところで、そろそろ出て来い。2人とも・・」
　宙を睨んだデュオの爪が、無造作に空間を引き裂いた。
　諦めたのか。素直に顔を見せた2人の姿に、シフェルが目を瞠る。
「レイルさん？」
　どうやらデュオだけでなく、誰にでもシフェルは”さん”付けをするらしい。余計な部分に感心しながらヒイロは小首を傾げた。少し険悪な空気だが、この赤毛の魔物らしき青年と金髪の少年に、何を怒っているのだろう？
　盛大な溜め息をついたデュオは、にやっと笑みを浮かべた。
「おまえらが仕掛け人か」
「まさかっ！　魔物を嗾けたのはレイルさんですか？」
　確信を秘めた死神の言葉を受けて叫んだのは、ブロンズの髪のシフェルだった。薄氷色の瞳を細めたレイルがくすくす笑う隣で、金髪のミカエルは頭を下げる。
「すみません」
「謝る必要なんかないぜ。コイツは楽しんでいたんだから・・そうでなきゃ、とっくにおれを呼び出してるさ」
　悪びれないレイルは軽く手を振ると、ミカエルの肩を抱いて姿を消した。
「追いかけますね」
　さっさと立ちあがったサリファに続いて、シフェルも身を起こした。
「では、私も手伝います」
　一礼して消えた彼らの後を、さわやかな風が追う。気配すら攫う風の心地良さに、ヒイロは目を細めた。


　戻ってきた静けさ――大木の根元に座り込んだままの2人に、惜しみない木漏れ日が落ちる。居心地良さに、ヒイロは目を細めて大木を見上げた。
　1000年前にデュオが封印されなければ、こうして一緒にいられなかっただろう。彼が自分に興味を持った理由は不明だが、開放された瞬間に殺されていた可能性もあったのだ。
　だが、こうしてデュオが穏やかでいられる影には、シフェルや滅びた神族の犠牲があった。理解していても、過去と言う時間のすべてに感謝したくなる。
　デュオが誰を殺して憎まれていても、どれだけ敵が多かろうと嫌いになれないのも、ヒイロにとって初めての経験だった。自分のリズムを崩す存在を許せるほど寛大な性格じゃないのに・・・。
「愛してるぜ、ヒイロ♪」
　抱き寄せる腕と、愛を囁く声がないと、もう生きていけない気がする。先ほど編み直したばかりの三つ編みを見つけて、デュオの背から引き寄せた。
　青紫の瞳が優しく注がれる。
「・・いま、お前が隣にいてくれて・・よかった」
　選びながら紡がれた言葉の深さに気づいて、デュオはそっと唇を重ねる。
　そんな2人に降り注ぐ木漏れ日は柔らかく・・・優しかった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 NEXT....？

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　今回はシフェル登場＆レイルとミカエルの顔見せでした。最初に思わせぶりな出番を作ったわりに、最後は忘れられてちらりと出演の2人でしたが、待て次号！　←あるのか？？？
　リクエストでも入ったら書きます。
　本当はこの後、また大騒動が起きてしまう予定なのですよ♪
　さてさて、レイル達は捕まっちゃうのでしょうか（笑