W2×1　【MiyabihimeA】

「ゴメンな、敵が多くて・・」
「減らす気がないなら、謝るな」
　怒っているわけではない。呆れたような口調で淡々と口にされた言葉に目を見開き、すぐにデュオは破顔した。
　確かにヒイロの言う通りだ。敵が多くて迷惑をかけている自覚はあっても、敵を減らす努力をしようとしないのだから、謝る意味がなかった。
　今までに量産してしまった敵は、ねずみ算式に増えていく。
　過日倒したヴィレイシェが良い例だろう。仕掛けたのは彼女で、デュオは我が身に降りかかった火の粉を払ったに過ぎない。だが、女王とまで呼ばれた実力者の彼女を信奉する僕（しもべ）は多く、彼らの敵意はデュオへ向かうのだ。
　パシッ、音がして近くで何かが爆ぜる。見れば、小さな橙色の球体が火花を散らしていた。近くの樹木はまったく焦げる様子がない。だが結界越しに伝わる熱は、高温と察するに容易い。
「あ～あ・・・」
　残念がっている響きと裏腹の笑顔は残酷で、死神と呼ばれる魔物の本質をよく表現していた。右の口角を持ち上げた皮肉な印象を持たせる笑みが、凍えてキツい眼差しを彩る。
「あの2人は大丈夫か？」
　心配そうに見上げるヒイロは、先ほどの球体がシフェルの手に浮かんでいるのを見つけた。どうやら魔物を撃退する武器として作り出したエネルギーが、何らかの理由で落ちたらしい。
「平気だろ。それだけの実力者だ」
　言外に”アイツらでも大丈夫だから行かせた”と告げるデュオの、表に出ない優しさに気づいて笑う。くすくす笑ったヒイロの反応が意外だったのか、目を瞠ったデュオは表情を和らげた。

「・・・本当に、あの人は騒ぎばかり起こすんだから」
　溜め息をついて、右手の熱を高めていく。橙色の球体は赤くなり、やがて青白い色へ変化し始めた。それは炎が持つ温度を現す色で、最高温度の白へ到達する手前で止める。
　目の前に現れた数十名の魔物相手なら、この程度で十分だった。練ったエネルギーを一振りすると、小さな弾にわける。敵の数と同じだけ作り出した弾を右手の上で弄んだ。
　ふわりと宙に浮いた弾のひとつへ手を伸ばし、人差し指で触れる。熱は感じない。実際にこの熱を浴びたら、一瞬で骨まで溶かして燃やし尽くしただろう。
　最初の敵を選び出し、弾に触れた人差し指で指し示す。作業はそれだけでよかった。
　―――ヒュンっ！
　飛んだ弾が指差された魔物の胸を貫き、中で留まって燃え始める。命を核に燃える炎に悲鳴を上げる魔物が地上に落ち、転げまわる姿が見えた。完全に燃やし尽くすまで、炎が消えることはない。通常の炎とは違うのだ。
　核となった命が消える瞬間まで、敵に痛みを齎しながら意識を失うことさえ許さない激痛に襲われる。残酷な技だが、相手の数が多い以上、1人ずつ確実に仕留めるのに向いていた。
「・・・久々に、楽しい狩りになりそうですね」
　そう言って笑った表情は、やはりデュオに似ていた。残酷に敵を滅する瞬間の笑みや、酷薄な印象を与える瞳が・・・どこか死神を彷彿とさせる。
　整っている顔は似ていない。髪の色も、瞳も・・・まったく共通点のない兄弟の、しかし本質は似ているのだ。
「・・・どうする？」
　敵の中に動揺が広がる。倒すべき仇（かたき）は1人だと思っていた為、大勢で片付けるつもりだった。そんな甘い考えが通用する相手ではなく、ましてや仇本人に手が届かない。
　引こうと考える魔物達の考えは間違っていなかった。ただ・・・遅すぎたのだ。振り返った彼らの表情に驚愕と戸惑いが浮かんだのは、いつの間にか張られた大きな結界故だった。
　・・・閉じ込められたのだ。
「あら、少し分けてくださらない？」
　にっこりと隣で笑う幼い容貌のサリファに、シフェルが緑瞳を細めた。気配を感じさせずに隣に現れた彼女は、周囲に高レベルの結界を張っている。どうやら気配も遮断しているらしい。
「好きなのをどうぞ、レディ」
「ありがとう」
　決して美人ではないサリファだが、まるで少女のように幼い顔を笑顔で飾る。顔に似合わぬ豊満なボディを見せ付ける過激な服を纏う彼女が、自分の胸元に手を置いた。ふくよかな胸の中央から細い何かが現れる。
「ちょっと失礼」
　シフェルにウィンクした直後、彼女は自らの体より細い剣を取り出した。長さは50ｃｍ前後、長い部類に入るだろう。当然傷ひとつない胸元は静かに呼吸を刻む。
「では、参りましょうか」
　好戦的な笑みを浮かべたサリファが促すのに頷き、シフェルも視線を敵に戻した。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　ぐははっ・・長くなりそう・・・な予感・・・・・汗。
　シフェル達に見せ場を！とか考えたのがいけないのかしら？？？