W2×1　【MiyabihimeA】

「ヒイロなら、こっちのが似合うぜ」
　ウィンドウの正面にヒイロを誘導し、言葉通りにブランドの財布を指差した。黒い財布に目を向けるフリで、ヒイロもガラスに反射する景色の中に目を向ける。気配の主は映っていない。
「そうか？　俺はこちらもいいと思うが」
　それとなく立ち位置を入れ替えながら、気づかれないよう背後を窺った。
「デュオっ！」
　突然かけられた声に振り返るデュオに、銀髪の美人が飛びついた。嬉しそうな満面の笑み、ほっそりとした体を反射的に受け止める。ふわりと香った透明感ある香水に、デュオは目を見開いた。
　記憶にある香り・・・白檀とアンバーが引き締める女性用香水。
「・・っと・・・セリア？」
　飛びついた勢いに追いついた髪が、デュオの上に降り注ぐ。驚いた様子ながら名を呼んだことに、ヒイロは眉を顰めていた。
　どう贔屓目に見ても、美女としか表現の仕様がない人に抱きつかれて、どこか嬉しそうに名を口にした恋人の姿に、目の前で浮気された気分になる。そんな狭量な考えに気づき、慌ててヒイロは表情を引き締めた。
「会いたかったのに・・一度も来てくれないなんて」
　薄情だと文句を告げてサングラスをずらす。そのままデュオの首に手を回して引き寄せた。映画のようなキスシーンに、ヒイロは瞬きすら忘れて硬直する。
「ちょ・・セリア、落ち着けって」
　焦って引き剥がしながらも、デュオは怒っていない。困ったように笑う表情は、懐かしい人に会えた喜びすら感じさせた。
「・・・・俺は先に帰る」
　むっとして、つい口を挟んでしまった。
　きょとんとした表情でこちらを見る美女と、おたおたするデュオに、”言わないで帰ればよかった”と後悔したのは当然だ。再会を喜ぶところに、水を差した状態だと気づいて、さらに居心地が悪くなった。
　無言で踵を返したヒイロは、突然後ろから腕を掴まれて体を震わせる。
「そんな冷たいこと言わないで・・ね？」
　サングラスを外した美女は、にっこりと笑顔を向ける。
　・・・・コイツ、何者だ？
　嫉妬に駆られていても、ヒイロの判断力は健在だった。仮にもエージェントとして上級にいる自分の腕を引き止めた行為は、外から見るほど簡単な状況ではない。怒りに任せていた感情が、少し冷えて警戒心に取って代わった。
　そういえば・・抱き着かれたデュオも、声を掛けられるまで彼女を見つけられずにいた・・・。
　蒼い瞳を眇めたヒイロは、自分の腕を掴む細くて白い指を見つめる。その腕から肩、首、顔へと視線を動かしながら振り返り、息を呑んだ。
　真っ赤な瞳―――ルビーの鳩の血（ビジョン・ブラッド）に似た、鮮やかで不自然な色が、サングラスのない彼女の顔に埋め込まれている。
「一緒にお茶しようよ、いいよね？　デュオ」
　はっとしたデュオが時計に目をやり、慌てた様子で頷いた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

---

　うふふっ・・・嫉妬ヒイロ♪
　楽しいなぁ！　ところどろこに伏線引いて！　こういう話大好き！！