W2×1　【MiyabihimeA】

　手に取るように分かる。自分が同じ立場なら同じ物を望み、もっと残酷に仕掛けるから。
　デュオは唇を噛み締め、サラの次の言葉を待つ。
「デュオ・マックスウェル。あなたのエージェントとしての能力は認めているのよ。だから、カトル・ラバーバ・ウィナーの暗殺をお願いしたいわ。最近の彼は邪魔なの、お父様にとっても・・・私にとっても、ね。ヒイロ・ユイの為だもの。そのくらいは出来るでしょう？」
　言外に、断ればヒイロを殺すと告げながら、彼女は微笑む。
　確かにミレイユ家にとって、ウィナー家の当主は目障りだろう。けれど、彼女の真意はそこになかった。
　彼女は選択を迫ったのだ。恋人を取るか、友人を取るか。デュオが、どちらも切り捨てられないと判断しての、残酷な選択を。どうせヒイロを選ぶのだと知っていて、悩んで傷つくデュオを見たいだけなのだ。
「ヒイロを・・・。それさえ終われば、ヒイロを返してくれるんだな？！」
「ええ」
　だったら、迷うことは出来なかった。
　たとえ世界中を敵に回しても―――ヒイロ自身から疎まれる決断だとしても、変わらない。
「わかった・・・3日、くれ」
　悔しさと苦々しい想いに、呻くように声を絞り出す。期限を告げると、サラは優雅な笑みを浮かべた。
　昔の自分なら、ここまで心を許しあった友人の殺害など、命に賭けて断っただろう。それほどにガンダム・パイロット達は、デュオの心の中に住み着いていた。
　だが、ヒイロには比べられない。
　彼以上の存在を、自分は知らないのだから・・・ヒイロの為に自分のすべてを犠牲にして、世界のすべてを捧げることが出来るほどに、ヒイロの存在はデュオにとって大切だった。
　ディスプレイの電源を切ると、デュオは解いた髪の中に両手を突っ込み、頭を抱え込む。
「ちきしょう・・」
　繰り返し・・同じ単語のみを、噛み締めた唇から漏らし続けた。



　時間の観念からも取り残され、デュオはただこれから己の行為が齎す悲劇を思い、辛いだけの感情を持て余していた。
　　ピッ、ピピ・・。
　独特のその呼び出しに、憔悴し切った顔で応じる。現実へ意識を引き戻す、すべてが鬱陶しかった。
「・・大丈夫か？　おまえ」
　レイルの心配の声さえ鬱陶しく、投げやりな態度を隠しもせずに、デュオは溜め息をつく。
「サラ・ミレイユの情報を送る。それと、先日のBBの件だが・・身内の恥を晒したくないんだが、DAのブレーンさえ軽くあしらったハッキング事件があったんだ。ちょうどお前がれんらくしてくる直前だった」
　レイルの言いたいことが理解できなくて、デュオは眉を顰めて先を促した。
「・・調査の結果、あれはBBの回路からの侵入だと思われる。サラの情報だけを洗いざらい持っていかれた」
「まさか？！」
　デュオの懸念を確証に変えた、レイルの無常な一言が続く。
「・・・犯人はヒイロ・ユイ、違うか？」
「ヒイロが、サラの情報を？」
　レイルの調査なら間違いない。ヒイロは1人手、サラ・ミレイユの情報を集めたのだ。方法はともかく、手順は正しい。L2出身の情報屋でもトップクラスのレイルなら、確かにスイーパーのことも、その幹部の事も調べられる。
　L2の回線内で、レイルのパスワードを使ってアクセスできない場所などないし、情報も大量にストックされている。
　そして、その情報を片手にヒイロは乗り込んだのか？　サラの元へ・・そして捕まった？！
「あれほどのハッカーがそう居る筈ない。腕は確かだと思うぜ・・トップクラスだな」
　言い捨てると、レイルは目を逸らして通信を切った。デュオの驚愕した様子に、これ以上の追求も話も無理だと感じたのだろう。背後に控えているミカエルも、無言で痛々しそうにデュオを見やるだけだ。
　ただ、サラ・ミレイユの過去5年間お情報だけがBBへ黙々と流れ続け、忠実なコンピュータがそのデータを保存し続けていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....