W2×1　【MiyabihimeA】

　示している時刻は、15時。約束したのは17時だから、あと2時間しかない。人質を盾に立て篭もったテロリストの所為で膠着状態になっていた1時間前よりマシだが、ここまで派手な戦場を作り出してしまっては、2時間後に帰るのは無理そうだ。
　苛立ちを込めてトリガーを引き、敵の数を次々と減らす。組まされた新人の手際の悪さに比べ、デュオの正確な射撃は目を引くものがあった。
　絶対に間に合わせてみせる！！！
　鬼気迫る表情で銃を握る死神。本人は良くても、周囲のエージェントはピリピリした空気に顔を引き攣らせていた。ヒイロとのデートを嬉しそうに語っていた様子を思い出し、何が何でも間に合わせないと自分達があの世への直行便へ飛び乗る破目になってしまう。
　自然とプリベンターの士気は上がっていた。

「・・・はぁ、はぁ・・・・・」
　駆け込んだ先で、息を切らせながら駅前を見回す。全力疾走の所為で砕けそうな膝に両手を当て、駅前ロータリーの大時計を確認した。約束の時間から10分遅れ・・・ヒイロの姿が見当たらない。
「ったく・・・オレとしたことが」
　舌打ちした背後から、ぽんと肩に手を置かれた。さっきまで任務を遂行していた為に緊張感を纏っているデュオは、背後を取られたと判断した瞬間に武器を手に振り返る。
　いつでも左手に隠し持っているワイヤーは、細くしなやかで物騒な武器だった。
「・・オレとしたことが・・どうした？」
　言葉の続きを聞きたがる声は、愛しい恋人のものだ。がっくりと力が抜けて、デュオはついに地面に座り込んでしまった。
「デュオ？・・・」
　小首を傾げる。
　身だしなみには人一倍気を使う男が、久しぶりのデートだというのに埃だらけ。きっちり編みこまれている筈の三つ編みは少し解れて、汗だくの額を拭う袖に血が滲んでいた。
　相変わらずのイイ男だが、何やら硝煙臭い。
「・・・・ゴメン、少し待って！」
　何か言いかけたヒイロを手で遮り、乱れた呼吸を整えた。ようやく一息つくと、隣にしゃがみ込んだヒイロに笑顔を向ける。
「任務だったのか？　ならば、今日は・・」
「家に帰って休むなんて言うなよ？！　デートの為に片付けてきたんだからな！」
　びしっと鼻先に指を突きつけられ、ヒイロは苦笑した。あっさりと任務を片付けるデュオが、ここまで必死になるのなら、間違いなく銃撃戦になる大事件だろう。疲れている筈なのに、それでもデートを優先する姿勢は―――ある意味、見事ですらある。
「わかった。今日は映画でいいか？」
　気遣ってくれたのだと気づき、デュオは軽く肩を竦めた。
「了解、オレはヒイロとデートできればＯＫ」
　だから、ヒイロの優しさに甘えてみせる。素直なデュオの答えに淡い笑顔を向け、立ち上がったヒイロが手を伸ばした。その手をしっかりと握り、デュオも立ち上がる。
「じゃ、デートに行きますか！」
　くすくす笑い出したヒイロの頬に接吻けて、デュオは幸せそうに微笑んだ。


　後日談：
　デュオの無茶苦茶な攻撃に付き合わされたエージェントの大半が入院してしまい、プリベンターはしばらく人手不足に悩む破目に陥り、レディを含めた首脳部は頭を抱えた。

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　いやはや、間に合わない色男もいいかな？と・・・・。
　ちなみにヒイロは飲み物を買いに行って戻っただけで、別にデュオを驚かそうとして後ろから現れたんじゃないの（笑）