W2×1　【MiyabihimeA】

　会場全体の指揮を含め、各要所にガンダム・パイロットを配置する。SPやエージェントのぴりぴりした空気の中、デュオはゆっくり伸びをした。その姿に、緊張感は欠片も感じられない。
「こら、貴様。暇なら手伝え」
　インカムから聞こえた苛立ちの大声に、欠伸をかみ殺したデュオが溜め息をついた。
「冗談だろ・・・オレ、2日間の徹夜明けだぜ？」
「当然だ」
　テロ予告は毎度のことで、当然ながら情報戦線は5日以上前から展開している。すべての情報管理と撹乱を担当したデュオの寝不足はひどく、確かに彼の顔は疲労が色濃く滲んでいた。
　だが、それはデュオだけではない。徹夜明けなのはデュオだけだが、他のメンバーも多かれ少なかれ休日返上で働かされていた。プリペンダーは人使いが荒いのだ。
「何を遊んでいる？」
　むっとした口調で無線に割り込んだヒイロは、女王リリーナの警護主任だ。淡いオレンジのスーツを身に着けたリリーナを前に、眉に皺を寄せていた。緊張感が散るような会話をしている2人だが、実はこの会話は警護SP全員に聞こえている。士気が下がると懸念して、ヒイロが口出しするのは当然だった。
「お、ヒイロ・・・・終わったら食事に行かないか？」
　まったく緊張感がないデュオの声に、意外な人物の声が重なった。
「いいですね、僕が店を予約しましょうか」
　くすくす笑いを抑えながら、カトルが口を挟む。続いた声に、全員がそろっている事実を確認した。
「そうだな」
　落ち着いたトロワの同意に、五飛が噛み付く。
「食事だと？　今はそんな状況ではない！」
「いいじゃないですか。そうだ、リリーナさんやドロシーも呼ぶといいですね」
「いいな、それ」
　五飛にとって天敵にも等しいカトルに続いたデュオの明るい声で、結局食事会は決定された。地球とコロニーを代表するメンバーに加え、ガンダム・パイロットが勢揃い・・・・ミサイルを打ち込まれそうだ。とんでもない状況に頭を抱えて悩んだのは、幸か不幸か・・五飛だけだった。

　リリーナの演説が無事終了し、何事も無く会場を後にする。彼女が中心の会議は、プリペンダーの懸念を払拭する大成功だった。
　警護を考えて、一流ホテルのラウンジを貸し切ったカトルのおかげで、メンバーは人目も気にせず乾杯のグラスを煽る。正装するのが面倒とぼやいたデュオに、リリーナの提案でラフな服装の会食が実現していた。
「でさ・・・お嬢さんが来るたびにテロが実行されてたけど、最近は減ってるんだよな」
　運ばれたパンを無造作に口に放り込みながら、それでもマナーだけはきっちり守っているデュオの呟きに、ヒイロが表情を和らげた。
「そうだな。最近は呼び出しも減った」
　徐々に平和を現実にしていくリリーナの苦労は、並大抵のものではないだろう。そんな褒め言葉を口にすれば、彼女は心底嬉しそうに笑った。いつもの大人びた表情でなく、年齢相応の若い女性の微笑みに、全員が笑顔を浮かべる。
「リリーナ様の理想が現実になるのも、もうすぐですわね」
　ワインレッドが似合う金髪の女性は、くすっと笑ってワイングラスを口に運んだ。ワンピースと同じ色の赤ワインが手に赤い影を作る。
　目を眇めたデュオの視線に気づいたガンダム・パイロット達は、黙って頷いた。
「ええ、皆さんのお陰です」
　ここにいる7人のうち、その手に血を浴びていないのはリリーナだけだった。195年戦争の最中も、その後も・・・平和の為に、彼らの手は人の命に濡れて、心は傷ついてきたのだ。
　誰よりもそれを知っているリリーナは、真っ白な手をテーブルの上に差し出す。その手に光るワイングラスに、メンバーは顔を見合わせた。
「リリーナ様？」
　ドロシーの怪訝そうな呼びかけが響き、カトルがワインボトルを手に立ち上がる。
「乾杯しましょうか」
　さっき乾杯したばかりだと野暮な言葉を吐く人間はいなかった。全員がワイングラスを満たし、リリーナのグラスに合わせる。
「平和に！」
　リリーナの凛とした声に、口々に同様の響きが寄り添った。
　平和という形の無い、当時は理想でしかなかった夢に共鳴し、協力してくれた―――感謝の気持ちが場を満たし、全員の表情が笑みに解かれていく。
　理想はもう、目の前だった。

---

　共鳴を調べてみました。「他人の考えや行動などに心から同感すること」とあり、とっさに思い浮かんだのが、カトルだったので・・・・5人揃えての話にしてみました（苦笑）
　予想外のメンバーも出てますが・・・軽く纏めようとしたら、纏めすぎて意味不明（汗）