W2×1　【MiyabihimeA】

　友人に向けるものとまったく違う、笑みは優しく、ヒイロは満足そうに顔を綻ばせる。そのままシャツの袖で、デュオの頬を拭った。乾き始めていた所為で拭き辛いが、キレイに拭うことが出来たヒイロの額に、チュッと音を立ててデュオが接吻ける。
「サンキュ」
　”ディアブロ”の総帥を殺した際に受けた返り血を拭ってくれる恋人に、彼は満面の笑みで礼を口にした。その微笑ましい2人の姿に、残る3人はほっと息をつく。195年当時からずっと、幸せになって欲しい2人だったから―――現状が嬉しかった。
「ところで、貴様何か隠し事をしているのか？」
　まっすぐな気質の五飛は、さきほどのトロワとデュオの会話が気にかかっているらしい。腕を組んで踏ん反り返った姿勢は、とても彼に似合っていた。尊大で偉そうな口調なのに反感を買わないのは、五飛が口で言う以上の成果を見せてきた結果だ。
「・・・知りたい？」
　天を仰いだデュオは、抱き寄せたヒイロの黒髪に絡まった埃やゴミを取りながら、頷いた五飛に溜め息をついた。
「ま、いいか。誤魔化す必要ないし・・」
「・・・・・・・・・話しても平気なの？」
　話せないのだろうと判断していたカトルの驚愕の問いかけに、スイーパーのトップ・エージェントは意地悪く片唇を引き上げる。
「誰も話せない・・とは言ってないぜ。ただ、チップは渡せないけどな」
　1階ロビーの散々たる様相を見回し、血と硝煙の臭いに噎せ返る空気で深呼吸した。
　近くのソファを指差してヒイロを誘導したデュオに続き、残る3人も向かい合ったソファに落ち着く。足を組んで寄りかかるデュオの三つ編みを握るヒイロは、今までも無言が嘘のように言葉を零した。
「―――前回の犠牲者に関係あるんだろう？」
　目を見開いたデュオの素直な反応に、してやったりと笑ったヒイロを引き寄せ、エージェントらしからぬ表情で肩を竦める。
「正解。さすがヒイロ」
　褒めた後で、すっと表情を引き締めた。そんなデュオの真剣な態度に引き込まれた3人も、聞く姿勢を作って身を乗り出す。
「スイーパーが25人もA級エージェントを派遣したのは、ある情報を奪い返す為だった。その情報の内容は言えないけど・・とにかくオレ達の行動と、プリペンダーからの任務が一致した。スイーパーの為に命を捨てた連中に、オレは報いなくちゃならない。その方法は―――ひとつしかないだろ？」
　組んだ足の上で手を組む。両手を重ね合わせたまま、右手の親指が左手の指の背を撫ぜる。何か思案している時の彼の癖だった。繰り返し指を撫ぜる動きが止まり、代わりに口を開いた。
「最初に渡された敵の規模が間違っていなきゃ、ここまで被害を出さずに済んだんだが・・」
　長い息を吐き出したデュオの手が解かれ、迷いながら握り締められる。拳を手で包み込んだヒイロに苦笑し、デュオは再び語り始めた。
「任務の為に失われた命は、悔やんでも戻らない。情報が漏れた原因はアイツだから、情報屋も協力してくれたってワケだ。あのチップの中身は、スイーパーが追っていた獲物さ」
　ここまで聞けば、それ以上尋ねることは出来なかった。カトルが眉を顰め、躊躇いながらも声を発する。
「まさか・・・情報って・・・」
「違う」
　否定したヒイロが、デュオを見上げた直後にカトルの水色の瞳を正面から捕らえた。
「キラー衛星の起動パスワードではない」
「・・・そう」
　ほっとした様子で「疑ってごめん」と呟いたカトルに、ヒイロはポケットから取り出した黒いチップを差し出す。反射的に手を出して受け取った。
「これがマスターチップだ。先日の病院でデュオが持っていたのは、侵入したエージェントが入手したコピーだった」
「コンピュータ内のデータは、情報屋が始末した」
　ヒイロの上から、説明を付け加えたデュオへ視線を移し、カトルは安心したように柔らかい笑みで頷いた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　長いよぉ・・・辛いよぉ・・終わらないよぉ！！