W2×1　【MiyabihimeA】

「・・・ッ」
「まだ寝ていろ」
　起き上がろうとした肩を押さえられ、再びシーツの上に寝かされる。そこで初めて、自分がベッドに寝ていることに気づいた。
「・・ヒィ・・・ロ？」
　声が掠れて、先ほどの動きに誘発された鈍痛が腹部を襲う。ゆっくりと右手を動かしかけ・・・肩が痛みで引き攣った。
　はぁ、溜め息が降ってくる。
　目の前で目元を押さえて項垂れたヒイロは、傷を気遣いながら手を貸してくれた。ヘッドレストに掛ったクッションに寄りかかったデュオは、ゆっくりと周囲の様子を確認する。
　白い病室の中で、沢山の花に囲まれていた。先ほど聞こえた水滴の音は、どうやら点滴だったらしい。左肘の内側に差し込まれた針から、輸血されている。
　部屋の中にいるのは、ヒイロと自分だけ。完全個室の作りに、ふと気づいた。
「シフェルは？」
「彼はもう退院した。お前は2日も眠っていたんだ」
　不機嫌そうな声に、相当心配させたのだと気づいて・・声を失う。よく見れば赤くなっている目とか、キレイな顔に残る隈が、彼の疲労度を物語っていた。
「ゴメン・・・心配させた」
　ヒイロが首を横に振ったその時、控えめなノックの音が響く。ちらりとデュオに視線を送ったヒイロは、ドアの向こうへ声をかけた。
　小さな音でドアが開き、　ヒイロに似た無愛想な五飛が顔を出し、続いて金髪が覗く。
「・・目が覚めたか」
「ああ、よかった！」
　心底嬉しそうに微笑むカトルが、後ろ手にドアを閉めた。部屋にあふれていた花は、どうやらカトルが持参したものらしい。今も両手に花束を抱えていた。
「2人とも、心配掛けたな」
　軽く応じるデュオが右手を動かし、痛みに顔を顰める。途端にヒイロが右手を押さえて下ろさせた。睨み付けてくる眼差しの強さに、小さな声で「すみません」と謝ってみる。
　右腕は引き攣って動かせず、脇腹は外科手術で縫われて―――満身創痍のデュオは、近づく2人の友人を視線だけで追った。
「無事ならいいんです」
　相変わらず優しい声をかけるカトルは、隣に立つ無言のヒイロに視線を向ける。その意味ありげな仕草を、デュオは見落とさなかった。
「・・・・何？」
　聞きたくない・・・気がする。聞かない方がいいんだろうな、たぶん。
　五飛も事情を知っているのか、2人の視線での遣り取りを瞬きで肯定していた。カトルの微笑みが変わる。それは劇的で、今まで友人を心配していた表情が、営業用のスマイルに染まった。読めそうで読めない表情は、食えないウィナー家当主の余裕が浮かんでいる。
「今回の作戦なんですけど・・・・実は」
「予想はしてたけど・・」
　溜め息混じりに遮った。やっぱり”聞かなければよかった”類の話だとがっくりしながら、デュオはひらひらと左手を振った。
「あれだろ？　スイーパーは囮だってんだろ」
「デュオ、僕が君を囮にしたなんて・・・冗談でも口にして欲しくないですね」
　にっこりと満面の笑みは、デュオの厭味でも崩れない。
「そりゃ失礼。じゃあ、あの孤立無援に追い込んだ作戦資料の理由を聞こうか」
　にやっと口元を歪めて笑んだデュオは、毒のある皮肉を吐き出した。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　さっそく、戦闘シーンから脱出する素直な綾雅。
　語りたいけど、ネタバレするし・・・・うずうず。明日の更新を楽しみにお待ちください・・・いや、もう今日か？！
　
　沙都様、ご希望どおりカトルも出してみました・・・笑。
　ちょうど書いている最中に希望が届いたので、ぴったり！　間に合わせてみました。この後はさらにカトルのブラック度が増す予定です♪