W2×1　【MiyabihimeA】

「奴はいたか？」
「いや・・・」
　インカムで短く会話を交わす間にも、銃のトリガーは引かれる。静けさが遠慮した戦場で、緊迫した空気を銃声が引き裂いた。煩い音の中で、互いの会話だけは聞き逃さない。背後に感じた敵の気配に振り返ったヒイロが、無造作にトリガーを引いた。
「あのバカがッ！」
　苛立ちに吐き捨てたヒイロの言葉に、苦笑した五飛は目の前の敵に忍び寄り、手刀で仕留めた。見回した先に残る敵の数は少ない。こちらに攻撃が集中している様子から、どうやらデュオがいるのは別の場所らしい。
「・・・こちらではなさそうだ」
　呟いた声に、ヒイロは「了解した」とだけ返して、通信を切った。少し先に別の戦場がある。自分の周辺で起こる銃声以外のタイミングで聞こえる音が、それを証明していた。
「・・・右か？」
　疑問形を取りながらも、ヒイロの声は確証に満ちている。威嚇に3発の銃弾を放ち、そのまま一気に戦場を駆け抜けた。

　
「・・動けるか？」
　心配というより、確認の為の一言だった。冷たいようだが、戦場では自分の命は自分で守るしかない。彼が動けないなら、共倒れを防ぐ意味で置いていくしかないのだ。たとえ、自分を助ける為に戻った人であっても・・・・。
　これが凄惨で残酷な戦場の掟だった。
　ごそっと身動きする気配が浮上する。さっきまで殺していた気配が甦り、ブロンズの髪を埃で汚した青年が口元だけで笑んだ。
「平気ですよ。デュオさんより、軽傷ですから・・」
　左側を血で濡らしたシフェルは、出血元の肩をきつく縛り上げる。座り込んだ彼の隣で、煤に汚れた壁に立ったまま寄り掛かるデュオは自嘲した。
　確かにその通りだ。
　右脇腹の銃創は、まだ血が止まらない。一応シャツで止血はしたものの・・・貫通しなかった銃弾は、体内で痛みを生む温床になっていた。右腕の傷と相まって、激痛が額に脂汗を滲ませる。深呼吸で痛みを誤魔化し、乾いた唇をゆっくりと舌で湿らせた。
　貧血に襲われながらも、デュオは決して腰を下ろさない。一度座ってしまったら、もう立てないと―――どこかで知っているのだろう。休憩とは違う、自分に弱さを許したら・・立てなくなってしまう。
「・・・銃声？」
　少し落ち着いていた戦況を覆す銃声に、耳を澄ませる。この場に残るターゲットは自分達2人だけの筈・・・なのに、銃声は離れた数箇所から聞こえていた。
「応援ですか・・」
「だといいがな」
　軽口叩きながら、デュオは残る銃弾をすべて装填した。銃は血に濡れて滑り、グリップをズボンで拭って握り直す。足元で同じように銃弾をセットしたシフェルが立ち上がった。
「・・くっ」
　寄り掛かった壁から身を起こそうとして、痛みに唇を噛んだ。殺しきれなかった声が漏れ、内心で舌打ちする。思ったより体力が失われていた。
「デュオさん？！」
「構うな」
　キツい眼差しがシフェルを射抜く。珍しい青紫の瞳が、紺色に近い暗さを宿して輝いた。手負いの獣さながら威嚇する姿に、いつもの余裕は感じられない。
　じっと睨み合う時間は長かったのか、短かったのか。
　2人は反射的に銃口を向けて背を合わせた。その動きは俊敏で、足元のふらつきさえない。手負いであることを疑う程の所作は、彼らの尋常ならざるエージェント能力を物語っていた。
　互いに背を預けた状態で、最初にトリガーを引いたのはシフェル。壁の影から飛び出したターゲットを1発で仕留め、押し出された薬莢が足元に落ちる。
　デュオは目を眇めて、何もない林を見つめていた。
　・・・・読み違えたか？
　自分でもそう思った瞬間、木の陰から気配を感じる。まっすぐにこちらを目指す気配は、かなり希薄で―――デュオでさえ微かに感じられるだけだった。
　トリガーの人差し指に力が入る。いつでも引き金を引ける状態で、右手を左腕の補佐に添えた。
　―――気配が近づく。
　ふっと・・表情が和らいだ。
「・・・・ヒイロ・・」
　感じた気配の透明さに、唇が勝手に名を紡ぐ。デュオの緊迫した気配が散じて、目の前に現れるであろう恋人の姿を待ち望んだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　ははは、やっとデュオとヒイロが合流できそうです。
　ちなみに、シフェルはお気に入りだけど、死神で殺伐としているデュオを静めるのは無理です。それはヒイロの役目ですから（笑）
　なお、2人にはケガをしていただきました。今後大変になるだろう脱出の伏線もあるんだけど、何より激戦！って感じがするでしょ？　←おいおい。