W2×1　【MiyabihimeA】

「なぁ、オレに抱かれながら・・何を考えてた？」
「・・・・・」
「何を気にしてる？」
　ヒイロの拳が震えている。デュオはその手を包み込んで、ヒイロの意識を自分へ向けようと必死だった。
「教えてくれよ。あのニュースを見てから・・・ずっとだ。何かを抱え込んでる。あの爆破テロの映像は、おまえに何を植え付けた？」
　ふぅ、ため息をついた。
　ヒイロは切な気に表情を歪めたまま、デュオの視線から必死で逃げている。その様子が痛々しくて、もういいといいそうになる。でも、それじゃ解決しない。
　いつまでもヒイロに悩んでいて欲しくない。解決できる筈だ。ヒイロ1人では無理でも、2人なら！

「・・オレは、おまえが必要だ。なのに、ヒイロにはオレが必要じゃないのか？」
「そんなことない！！」

「だったら、ヒイロ自身の言葉で・・聞かせて欲しい。何がそんなに、おまえを苦しめているんだ？」
　デュオの寂しげな瞳に、ヒイロの唇が震えた。何かを言いかけて、うまく言葉に出来ないもどかしさに、また唇を噛む。
「おまえのこと・・・すべて、知りたい。知っていたいんだ！」
　それでも視線を合わせようとしないヒイロに、デュオは肩から力を抜いた。自分ばかりが意気込んでも、ヒイロには負担になるだろうから・・・。
　俯いているヒイロを、じっと見つめる。微かに震える肩を、自分で庇うように抱き締めているのが、あまりにも苦しげでそっとしておいてやりたかった。だが、そういうわけにもいかない。
　デュオは、別の方法で聞きだすことにした。ヒイロが言葉にすることを躊躇うなら、自分の予想をぶつけるしかない。そうやって、少しずつキーワードを引き出して繋ぎ合わせる。

「≪俺は・・いてもいいのか？≫」
　デュオの声が、あのときのヒイロのせりふを口調そっくりに繰り返す。
「≪存在してもいいのか？≫」
　弾かれたように顔を上げたヒイロの視線を捕らえて、デュオは真剣に思いを込めて見つめ返した。
「おまえはあのとき、こう言ったんだよな・・・。何をそんなに気にしたいる？　もしかして、あの台詞は自分の存在を肯定して欲しかったんじゃないのか？！　オレはおまえを必要としている。だから、何も思い悩む必要なんてないんだ！」
　言い切ったデュオを否定する仕草で、ヒイロは首を振った。力ないその動作が、やけに目に痛い。
「逃げるな、ヒイロッ！　目を逸らすな！！　逃げても、何も解決しない。なあ、何を悩んでる？　オレにはいえないのか？！」

　本気で心配してくれているのが伝わってくる。
　デュオはいつもそうだった。俺がひた隠しにしている心を、白日のもとに引きずり出してしまう。
　隠して、隠して、隠して。誰にも触られないように、必死で隠した心の憶測に踏み込んでくる。それが同情や興味、好奇心からだったら、俺は突っぱねた。突っぱねることが出来た。
　デュオは違う。本気で俺を欲しがってくれる。こんな俺でもいいのだ、と肯定してくれる。
　だから・・俺は甘えてしまう。
　本心から心配して、大丈夫だと諭してくれる―――そんな存在が、この俺にはどれだけ大切か。失いたくない！と、俺が初めて思った人。
　デュオは、ありのままの俺を否定しない。誰もが完璧な『理想像』を押し付けた。教育者たちは言うに及ばず、カトルたちまで・・・・。
「・・・デュオ」
　吐息に混ぜた呼びかけに、デュオはヒイロを抱き締める。
　泣きそうな顔に見えた。今にも崩れてしまいそうに儚くて、ヒイロが1人で立っていられない気がした。
　そっと、ヒイロの腕がデュオの背に回される。おずおずと躊躇いすら含んで、腕の中のデュオを確かめていた。
「俺は、ただ――生きていたかった・・・」
　ぽつりと零された言葉の重みに、デュオは目を伏せた。
「うん・・・、わかるよ」
　孤児だったデュオも生きることに貪欲で、その為に何でもしてきた。だから、ヒイロの言葉の重みがわかる。
　まったく正反対でありながら、同じように特殊な環境でそだった2人。愛情を欲しても決して与えられず、求めることすら否定される環境。
　ヒイロは自分の感情を捨てた。
　デュオは感情を守り通した。
　どちらも究極の選択だった。どちらも正しく、またどちらも間違っている。そして・・・どちらを選んでも、当事者以外は口を挟む資格も権利もない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....