W2×1　【MiyabihimeA】

　心配そうに歪められた表情と、震える腕の感触、求めた人の温もり―――ぽつりと頬に涙が落ちる。上から降ってくるデュオの心に、ヒイロは口を開いた。
「・・・・ォ・・っ」
　声が出ないながらも、唇は震えながら名を呼ぶ。
「ヒイロッ・・・良かった・・・」
　膝をついたまま胸元に引き寄せていたヒイロの頭を抱き込み、頬を伝う涙を止める術もないまま流し続けた。自分の左手の血を口に含んで、もう一度、錆びた匂いのキスを贈る。
　口移しに与えられる甘い血を受け取りながら、あまりに濃厚な臭いに顔を顰めた。怠い体を鞭打って周囲を見回せば、アイボリーの絨毯を基調とした淡い色彩の室内は、血の赤に染まっている。転がる死体に不愉快さが増し、ヒイロは深い息をついた。
「デュ・・オ・・・・」
　気怠くて持ち上がらない手を動かせば、指の動きに気づいたのか。デュオの温かい手が指を包み込んでくれる。普段は少し冷たく感じる肌なのに、血が足りないヒイロの方が冷えていた。
「ゴメンな、側を離れたりして・・・こんな目に合わせちまった」
　ぎゅっと抱き締められ、ヒイロはほっと息をつく。再びデュオに出会えてよかった・・・もう会えなくなるかと・・・思ったのに。
　肩の傷がむず痒い。デュオの持つ不死の民の血が、傷を塞ぎ始めたのだろう。視線を向けた先で自分を抱き締めるデュオの顔は、少し血の気を失って青白かった。大量の血を自分に与えたからだと悟り、ヒイロは何も言えずに顔を埋める。
　ふわりと抱き上げられ、柔らかいソファにおろされた。背から下ろされても、もう傷は酷い痛みを訴えることはなくて、安堵に息をつく。
「・・・トロワは？」
　はっと顔色を変えて起き上がろうとするヒイロを、デュオの腕がそっと押し戻した。首を横に振る仕草と、かすかに浮かんだ笑みに、彼の無事を知る。
「大丈夫、オレ達の血の力を知ってるだろ？　トロワも、五飛も無事だよ」
　額に接吻けられ、濡らしたタオルでそっと顔を拭われる。血でべっとりとしていた肌が清められる感触の心地よさに、ヒイロは長い息を吐き出し・・・・眠りの腕（かいな）に落ちて行った。

「五飛、トロワは？」
　振り返ったデュオは立ち上がろうとして、ふらっと足元を掬われた。倒れそうになる体を、ソファに手をつくことで支える。
「・・・・大丈夫か？」
「・・・・ああ、平気だ・・それよりトロワは」
　視線を向けた先で、だいぶ呼吸の落ち着いたトロワを見つけ、デュオは安心して座り込んだ。気怠さは酷く全身を覆い、もう1歩でも動きたくなかった。周囲を見回せば、人間の死体が転がり、部屋は散々たる有様だ。
　お茶をしていたときの優雅な時間が嘘みたいに汚れた室内を、這うようにして移動したデュオは、トロワの柔らかい緑の瞳を正面から覗き込んだ。
　壁に背を預けて座るトロワと、隣に膝をついた五飛に頭を下げる。
「ヒイロを守ってくれて、ありがとうな。トロワ」
「・・当然のことだ」
　槍で貫かれた背から胸にかけての傷は、表面上塞がっていた。しかし中はまだぐちゃぐちゃの状態なのだろう、身じろぎせずにデュオの言葉を受け止める。
「五飛、ヒイロを守れなくてゴメン」
「それは俺も同じだ」
「でも・・」
「それ以上言うな！」
　自分でも責任を感じているのだろう。純血種であるヒイロを守る役目を譲ったとはいえ、五飛も無関係とは言えない。これだけのメンバーを手古摺らせたハンター達の作戦が、それだけ優れていたということ。
「ヒイロは・・生きている」
　これ以上の真実があるか？
　そう尋ねる五飛の強い眼差しに、デュオはようやく頭を上げた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　いやぁ・・無事ヒイロ助かりました！
　よかったですね！　少し血の気の多すぎるデュオには献血（？）してもらって、ヒイロは細い体をゆっくり休めてもらいましょう♪