W2×1　【MiyabihimeA】

「ちょ・・・げほっ、危ね・・・」
　飛び退って避けたデュオは、まだ煙で咳き込んでいた。チッと舌打ちした五飛は、さらに踏み込んで蹴りを繰り出す。
「うるさい、自業自得だ」
「・・・確かに」
　思わず同意してしまったトロワの隣で、ヒイロも小さく頷いた。
　模擬戦が決まった一昨日から何かを作っていたのは知っているが、まさか爆弾の類を作製していたとは・・・。しかも本人の言葉を借りるなら”失敗した”らしい。
　あの煙の量を見れば”煙幕”でない限り失敗なのは一目瞭然だが、何を作ろうとしたのやら。
「ちょ、助けろよ。ヒイロ」
　見事な体捌きで五飛の攻撃を避け続けるデュオからの指名に、ヒイロはにやっと性質の悪い笑みを浮かべた。
「いいのか？　確かに負けたらひとつ願いを叶えると言ったが・・・」
「あ、ダメ！　それは後で・・・っと―――ぁっぶね！！」
　慌てた様子で叫んだデュオの三つ編みが解ける。どうやら五飛の手刀が掠ったらしい。頬にも赤い線が滲んで見えた。
　模擬戦前にした約束を口にしたヒイロは楽しそうで、逃げ回るデュオを見つめる。周囲を取り囲んだエージェントの野次や喝采を浴びて戦い続ける2人を余所に、トロワが眉を顰めて建物を見上げた。
「・・・カトルが居ない」
　ぽつりと呟かれた言葉に、ヒイロが弾かれたように周囲を見回した。
「マズイな・・」
「ああ」
　顔を見合わせた2人がそっと離れようとした瞬間、地獄の底から響くような声が聞こえた。
「・・・どこ行くのさ、2人とも」
「いや」
　口篭ったトロワを睨むと、ヒイロの隣をすり抜けたカトルは、淡い金髪を煤で汚している。ウィナー家の当主は、壮絶な笑みで人の輪を掻き分けた。
　素直に場を譲るエージェント達のビクついた様子に気づいたのか、単純に身の危険を感じたのか。五飛が攻撃の手を休めて振り返った。
「どうしたの？　いいじゃない。続けて」
　性質の悪いカトルの笑みに気づかず、デュオがやっと訪れた休息に座り込む。
「ったく、そんなに怒るなよ。五飛。だいたい、お前だって止めなかったじゃないか」
　ふぅ～と息を吐き出したデュオは、周囲が静か過ぎることに気づいて顔を上げる。煤に汚れたカトルの怖い笑顔に、だんだんと顔が引きつったデュオが手を目の前で振った。
「えっと、違うんだ。ちょっとした余興のつもりだったんだけど、ほら、失敗しちゃって・・・あの・・その・・・・顔、汚れてるぜ？」
「誰の所為だろうね、デュオ」
　言い訳がさらにカトルの怒りを煽っている状況で、デュオはがっくりと肩を落とした。
「・・・オレの所為です。すんません」
「そう、理解出来てるならいいんだ。後で返してもらうけどね」
　カトルの怒りがそれで収まるならと頷いたデュオ。しかし、彼の怒りはその程度で収まる筈もなく、矛先は五飛に向かった。
「五飛、君はデュオの爆弾作りを見逃したんだ・・・？」
「・・何故俺が怒られる」
「へぇ～、反省してないの？」
「いや・・」
　言葉を失った五飛はぷいっと顔を背ける。そんな五飛が気の毒になり、トロワが口を挟んだ。それが更なる悲劇を呼ぶ。
「カトル、五飛にデュオを止められる筈がない」
「なんだとッ！　貴様、俺を愚弄するか！！」
「五飛を庇うと、トロワも同罪だよっ」
　庇ったはずの五飛にまで睨まれてしまい、助けを求めようとしたヒイロは視線をそらした。孤立無援になったトロワは、ヒイロの手を掴む。ここでヒイロに逃げられては、自分の身が危険だった。
「・・と、ヒイロが言っていた」
　卑怯な責任転嫁をしたトロワを、信じられないという眼差しで見つめるヒイロは、背後に迫る恐怖の気配に体が強張る。
「許さないよ、皆・・・このままじゃ、絶対許さないからね！！」
　叫んだカトルが笑い出し、その恐ろしさに全員一緒に走り出した。

　デュオとヒイロ、トロワと五飛。結局いつもペアに別れて逃げるガンダム・パイロットを見ながら、レディ・アンは溜め息を付いた。
　どうやらペア替えは無理のようだ。任務達成率が高ければ、もう放置して好きにやらせた方がいいかも知れない―――たとえ、周囲への被害が桁違いに大きくても。

「このバカが！」
　小脇に抱えたヒイロに殴られ、逃げながらデュオは心底反省したとか・・しないとか。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 END　or　？....

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　デュオ・・・あんた本当にエージェント？って疑問系の話にしたかったんですが、なにやら最強キャラはカトル様って話になってしまいました。
　カトルは大嫌いキャラでしたが、ここ数年で結構好きになりました。なんかいい人っぽくも出来るし、黒キャラにもなるし。かなり使いやすいかも♪
　ちょっと最近100のお題とかが暗かったので、明るい話を書きたかっただけです。「任務」とは少しずれるかも知れませんが、楽しんでいただけると嬉しいです♪