W2×1　【MiyabihimeA】

　整った顔はあまり表情を表に出さないけど、その分、内面の感情は豊かだ。家族にさえ距離を置かれてしまったヒイロにとって、感情を表に出せる機会が少なかったのだと・・容易に想像がついてしまう。辛かったと想像して同情するのは簡単だが、デュオはそんな安直な手段で、自分の感情を穢す気はなかった。
　ヒイロの横顔を朝陽が照らし出す。その直前に腕で光を遮っていた。まだ目を覚ます時間ではないし、もう少しゆっくりと休ませてやりたかったのだ。
「・・・ん・・」
　掠れた声が漏れて、ヒイロの長い睫毛が震える。目覚めが近いのだろう、薄く開かれた瞳は鮮やかな蒼を湛えて瞬いた。美しい色を秘めて、何度か瞬きを繰り返す。照れたように薄く笑うヒイロの頬に、デュオは接吻けを贈った。
「おはよう、ヒイロ」
「・・・ああ、おはよう」
　まだ声が掠れている。
　寝起きだからという言葉だけで片付けられない昨夜の行為を思い出し、ヒイロの顔が赤く染まった。その様を愛しそうに見つめ、デュオは身を起こす。
　ヒイロの裸体にシーツをかけると、足元に落としたままの黒衣を拾い上げた。トレードマークになっている三つ編みを結いながら、手早く身支度を整える。その背に翼はなく、付け根となる肩甲骨の周辺も傷ひとつない白い肌に覆われていた。
　編み終えた三つ編みをぽんと背に放り、デュオは視線に気づいて振り返る。じっと物言いた気な眼差しを向けるヒイロに小首を傾げた。
「どうしたの？」
「・・・いや、翼が・・」
　何もない背中を見ていると、あの翼が現実だったのか分からなくなる。
「・・見せようか？」
　即座に否定した。あの開放された魔力が、またデュオを苦しめることになると思うから・・・。しかし、デュオは笑顔でヒイロの懸念を打ち消した。
「普段から封じてると暴走するけど、昨日開放したばかりだから平気だよ」
　封じていると反発するように魔力が圧縮されて高まる。その分だけ開放した瞬間に暴走する確立は上がり、デュオの翼が持つ高次元の霊力でも抑えきれなくなってしまう。1000年前に封じられて以来、開放されずに蓄積された魔力はヴィレイシェ相手に弾けた。
　もう当分、危険もないだろう。
　デュオの説明に安心したのか、ヒイロはくしゃくしゃになったシーツの中から手を伸ばして、デュオの三つ編みの先を握った。近づいたデュオの背に手を回せば、ふわりとした感触が触れる。ばさりと音を立てて広がった黒い翼を撫で、その心地よさに目を細める。
「ヒイロは翼が気に入ったんだな」
　嬉しい反面、少し恥ずかしい気もする。ずっと・・汚いものを隠すように封じていた翼を、こうして見たいと強請られるのは擽ったい。そして、それを叶えている自分の変化も。
　頷いたヒイロの肌に、昨夜の刻印を見つけたデュオは、ふと表情を和らげた。こうしてヒイロは自分を受け入れてくれた。それに比べたら、翼を晒す事など問題にならない。
「愛してる、ヒイロ」
　ベッドに座ったままデュオの翼を撫でていたヒイロは、突然の告白にふわりと笑みを浮かべた。今までの淡い微笑ではなく、もっと艶やかで自然にこみ上げた感情に従った表情に、デュオは声を失う。
　誰より綺麗だと思った顔が、別の表情を自分に見せてくれる奇跡に、目の前の愛しい存在を抱き締めた。
「・・ずっと傍にいるのだろう？」
「ああ、離れたりしない」
　ヒイロの自信たっぷりの問いかけに答えながら、楽しくなりそうな今後の旅を思う。
「次はどこへ行く？」
「南の方へ」
　暖かい地域を目指すと告げられ、デュオは笑みを浮かべた。新しいメンバーを加え、旅は続く。マスターであり、最愛の恋人となったヒイロの温もりに寛ぎながら、完全に夜の明けた青空を見上げた。
　窓の外は快晴―――再び旅が始まる。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　NEXT？....

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　やっと旅が始まりました・・・って、始まってどうするよ。一応ここで終了。またリクがあったら書いちゃうかも知れませんが、裏設定てんこ盛りなので、書くなら忘れないうちにしよう（笑）
　デュオってば・・実はトラブルメーカーで、過去の悪行の報いにヒイロとサリファを巻き込んでしまうんですよ。今後もその展開は変わりません。ちなみに、サリファは性格良い娘さんなので・・・デュオみたいに恨まれたりケンカ売られたりはありません！
　
　11111GETのYURI様、13000GETの匿名希望様、15000GETの久弥ちゃんと続いた「使い魔」シリーズですが、ようやく完結しました。皆様、大変お待たせいたしました。
　なお、上記の3名様はすべてを通してプリントアウト可ですので、ご利用くださいね・・・って、長いよホント。