W2×1　【MiyabihimeA】

　カトルの護衛についたデュオと、リリーナの護衛を引き受けたヒイロは、同じ会場で顔を合わせていた。トロワはテロ組織への潜入を果たしているし、五飛は会場全体の警護システムを統括していて忙しい。
　コロニーと地球の会合は頻繁に行われ、重要人物が集まる会議はいつでもテロの対象となる。今回もテロの気配を察したプリペンターは、万全の警備体制を用意していた。すなわち、元ガンダム・パイロットの配備を含み、会場となるドームのある地区を封鎖したのだ。
　最初に不穏な空気を感じ取ったのはヒイロだった。すぐに気づいたデュオも、カトルに耳打ちして後ろへ下がらせる。互いに警護対象を背に庇った瞬間、テロリストがドームに雪崩込んだ。
　ヒイロやリリーナと合流する前に、バズーカによる砲撃で間を裂かれたデュオとカトルは、そのままドームの奥へ逃げ込む羽目に陥ってしまった。
「危ないっ！」
　叫んだデュオに抱き込まれたカトルが顔を上げた時、ドームの一部は無残に破壊され青空が見える状態。どうやら狙われているのは、リリーナではなくカトルの方らしく・・・追っ手は執拗なほどにデュオとカトルに迫っていた。
　ふぅ・・息をついてタイミングを計ると、廊下へ顔を出す。途端に飛んでくる銃弾に首を引っ込めたデュオは、少し考えるように自分の銃とカトルの銃を見比べていた。
「五飛が駆け付けるまで、今の状況じゃ7分か・・・。ヒイロはお嬢さんと脱出しただろうし・・」
　ブツブツ計算していたデュオは、肩を竦める。
「デュオ・・血が！？」
　突然腕を掴まれ、デュオは痛みに顔を顰めた。この状況なのですっかり忘れていたが、そういえば先ほど銃弾が掠めていたのだ。左脇腹を切り裂いた傷は、血量の割りに軽かった。
「あ？　平気、平気」
　ひらひらと手を振って笑うデュオに対し、カトルは顔色を青くしていた。こんな出血なのに、彼はずっと我慢していたのだ。痛みだって相当だろうに・・・。
「・・・・もうすぐ助けが来る。動かないで待とうよ」
　自分を気遣っての言葉だと気づき、デュオは笑って同意した。確かにそろそろ五飛が飛び込んでくるだろうし、ヒイロも引き返してくる頃合いだ。
　ハンカチを取り出して傷を押さえるカトルに、自分のシャツを引き裂いて包帯にしながら、デュオは軽い口調で声をかけた。
「なぁ、カトルの子供の頃の夢って何？」
「・・突然、何ですか？」
「いいから、さ！」
　ウィンクつきの軽い口調に促されたのか、カトルは考え込む仕草を見せた。すぐに思い出したのか、アクア・ブルーの瞳を和ませて笑う。
「父のようになりたい、と思っていました」
「じゃあ、夢は叶ったんだな」
「そういうデュオは？」
「オレ？　オレは・・・家族が欲しかった」
　声の明るさに似合わぬ内容に、カトルは言葉を失った。ところが、予想外の方向から声がかかる。
「何をバカな話をしている」
　緊張感が足りないと文句を付ける五飛は、瓦礫の山を擦り抜けて2人の隣に立った。一瞬廊下を窺い、敵の数を数える。すぐに機関銃を向けると、廊下へ向けて一斉掃射した。
「ヒイロが反対側から揺さぶりをかける。行くぞ！」
　デュオの傷を一瞥しただけで、五飛は何も言わなかった。
　行けるか、とも。
　大丈夫か、の一言も発しない。
「了解」
　カトルを庇うようにして走り出したデュオの背後を守りながら、五飛もドームからの脱出に全力を尽くした。

　立派なドームもここまで破壊されれば、ただの廃棄物に過ぎない。
　崩れた壁に寄りかかったデュオは、煤けた顔で申し訳なさそうにしているカトルに笑顔を向けた。
「大丈夫だって、たいした事無いから」
「ほぉ・・・またケガをしたのか」
　すでに感じていた気配の主の、上からの声に青空を仰ぎ見て・・・さらに蒼い瞳を見つける。
「ヒイロ♪」
　嬉しそうなデュオの表情に、ヒイロは顔を顰めて前に回り込んだ。傷を簡単に確認すると、持っていた消毒液を遠慮なく振りかける。
「痛ッ、何すんだよ」
「平気なんだろう？」
　意地悪いヒイロの問いかけに、つい目の前のカトルを見て頷いてしまう。そんなデュオの隣に座り込んだヒイロは、近づく五飛に気づいて顔を向けた。
「貴様、さっき戦場で何をやっていた？」
　飲み物を放って寄越す五飛の問いかに、デュオは少し首を傾げ・・・すぐに大きく頷いた。
「ああ、あれか。小さい頃の夢は何か・・って話をしてたんだ。カトルは父親みたいになりたくて、オレは家族が欲しかった。ほら、和むだろ？」
「戦場で和むな！」
「いいじゃんかよ、五飛はどんな夢を持ってた？」
「・・・一族を守りたかった」
　五飛を守る為に自爆の道を選んだコロニーの末路を思い出し、一瞬沈黙が落ちる。それを過去だと割り切ったように、五飛自身が暗い空気を切り裂いた。
「ヒイロ、お前は何かあったか？」
　渡されたチューブ式の携帯飲料を口にしながら、ヒイロは眉を寄せる。
「いや・・・覚えていない」
　そんなヒイロの肩に手を回し、デュオはことさら明るい声を出した。
「今度、トロワの旦那にも聞いてみようぜ！　それより、携帯食じゃないメシが食いたくないか？」
　乗せようとしているデュオの意図に気づきながら、3人は顔を見合わせた。自分から振った話の思わぬ展開に、デュオが戸惑っているのだと気づいてしまう。
　戦うことを自らに課してきた少年達は、普通の子供が持つ夢さえ与えられなかった。
「そうですね。僕が奢りますよ。まずはシャワーを浴びて、リリーナさんも交えて5人でディナーにしましょう」
「やったね！」
　やっと響いた笑い声に、4人は戦場となった会議場を後にした。

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　だ～か～ら～？！
　ってカンジに仕上がってしまいました。
　もっと軽くてポップな雰囲気にしたかったんですが、途中で妙な部分に力が入ってしまい、気づいたら・・あわわっっ。
　この後、ヒイロはきっと言わなかった”夢”をデュオに無理やり言わされていることでしょう・・・ベッドの上で！