W2×1　【MiyabihimeA】

　”後悔先に立たず”―――名言が脳裏を過ぎるヒイロの溜め息は深い。
「あら。人間にしてはキレイじゃない？！」
　1人きりの部屋に突然響いた声に、ヒイロは蒼い瞳を天井へ向けた。通常の人間ならドアを確認するだろうが、幸か不幸か・・魔物との付き合いが長いと慣れてくる。どういった理由からか、魔物達は宙に浮くことを好む・・・というか、浮いているのが日常らしい。そして、声の聞こえた方角が上ならば、見上げるのが当然だった。
　案の定、座り込んだヒイロの上に浮かんでいた女性は、淡い青に見える白っぽい髪と空色の瞳の上級魔性だ。にこにこと愛想よくしながら、ヒイロの顔を見つめている。
　デュオの顔を見慣れた所為か、美女だとは思えなかった。しかし可愛らしいという表現が似合う、目を引く女性なのは否定しない。まだ16～7歳の外見だが、実年齢はかなり上だろうと想像できた。
「・・・・・・」
「魔物慣れしてるのねぇ～」
　無言のヒイロに脅えた様子がないのを知り、彼女はからからと笑い出した。さっぱりした性格の主だが、危険でない証拠にはならない。言質を取られないよう、ヒイロは用心深く相手の出方を待った。
「あの方のご命令とは云え、どんな人間かと思えば・・・そうね、これなら許してあげる」
　一方的に喋った魔物は、見事なボディーラインを見せ付ける露出度の高い衣装を翻し、ヒイロの目の前に着地した。そのまま手を伸ばし、呪力が使えないヒイロの周りに結界を張る。
「・・・どうする気だ？」
　初めて口を利いたヒイロの声に、彼女は楽しそうに首を傾げた。
「さぁ？　あの方の考えは知らないわ・・・私はあなたを連れて戻るように言われただけなの」
　言外に”用があるのは私ではない”と教えた魔物は、すっと手を上に持ち上げる仕草をする。全身に寒気が襲い、咄嗟に目を瞑ったヒイロは・・・次の瞬間信じられない物を目にした。
　ベッドから滑り落ちた体―――。
　どうみても自分自身の肉体だった。周囲を見回せば、自分が浮いているのが解る。霊体と呼ぶのか、精神体と表現するのが正しいのか。肉体から切り離された意識は結界に包まれ、上級魔性の手の中にいた。
　頭が痛くなるほどの、甘い香りからは完全に切り離されているのが、不幸中の幸いだろう。
　ズル・・ベッドから落ちた体が床に崩れる。
「・・・・・死んだのか？」
　実感がないので、呟いた声は疑問系だった。
「いいえ、ただ魂を抜いただけ。簡単に戻れるわよ」
　明るい声で告げられても、彼女自身は戻してくれる筈がない。自力ではどうしようもない現状に眩暈を感じながら、ヒイロの唇が動いた。
「･･･デュオ」

　黒髪の美女が手を伸ばす。にっこり笑った青白い髪の女性が、そっと差し出したヒイロの入った球体を、美女は嬉しそうに受け取った。
「ご苦労様、サリファ」
「いいえ、お役に立てて幸いですわ。ヴィレイシェ様」
　サリファと呼ばれた青白い髪の魔物は、少し首を傾げた。ヒイロを覗き込むと、主であるヴィレイシェに尋ねる。
「ところで、この人間をどうするんですの？」
「・・・お楽しみよ」
　金色の瞳を煌かせた黒髪の主の、唇を指で押さえた可愛い仕草に吐息が漏れる。本当に美しい主だ。以前に仕えたいと願った”黒衣の美人”と似ている。本心から仕えたい人が消えてしまったサリファは、ずっとフリーだった。別の主で代用できる想いではないけれど、このヴィレイシェの隣に居ることで心安らぐのも事実だ。
　ヴィレイシェも、サリファが望む存在が自分でないと知っていた。
「・・・・・」
　参ったな・・・。声に出さずに眉を顰めることで不快さを示す。肉体がなくとも、結界の球体の中にいるヒイロは、通常と同じ姿を纏っていた。ただ、サイズが小さいだけである。
「さて、そろそろデュオが動き出すわね」
　鈴の転がるような美声、黒髪の魔女は金瞳を眇めて楽しそうに笑う。その言葉に”やはりデュオが目当てか・・”とヒイロが溜め息をついた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　う～ん、思ったより話が進まない・・・どころか、サリファが出現！！
　参ったな・・・ヒイロじゃないけど呟いてしまう綾雅。
　ちなみに、ヒイロは落ち着きすぎです！！！