W2×1　【MiyabihimeA】

　電波に乗る高めの声に、五飛はシャトルへの攻撃を中止した。作戦中にこの回線を使うことを知っているのは、ガンダムの関係者・・わずか5名のみ。
　この声は―――カトルか？！
　ばかな、奴は来ない。
　否定した側から、返答のない五飛に相手は語りかけてくる。
「五飛、聞こえてる？　リリーナさんから、無事だって連絡があったんだ。それに僕の決心もついた。戦うよ」
　間違えようのないカトルの言葉に頷き、五飛は一方的に介入されていた回線をオープンにした。
「わかった。だが、ここは俺1人手十分だ」
　言外に、デュオ達の手伝いをしてやれと指示を出す。ナタクの隣をシャトルが通過した。
　新WFのMDがシャトルに攻撃を加えようとするのを、ナタクが次々と叩きつぶした。圧倒的な力の差に、本当に加勢は必要ないと知ったカトルは安心する。ケガの具合が気になっていたが、この程度の敵に五飛が苦戦する筈もなく、楽な勝利をもぎ取っていた。
　シャトルでの接近に限界を感じて、カトルはサンドロックに乗り換えてシャトルを捨てる。デュオの後を追って、見取り図を頼りに本部へ進入していた。
「デュオ！　トロワ！」
　呼びかけるカトルの声に、先に答えたのはトロワだった。
「カトルか・・」
「リリーナさんの無事を伝えに来たんだ。それと、僕は何をすればいいの？」
　手伝う意志を明確に伝えてくるカトルに、トロワは作戦の概要を思い浮かべる。デュオとヒイロの合流を待たずに、ブリッジの制圧と民間人の救出が両立できる可能性に気づき、カトルに民間人救出を任せることにした。
　カトルなら顔を知っている人間がいるだろうから、より混乱を招かずに脱出をサポートできる。
　前回もそうだが、カトルには殺伐とした戦闘より、こういった任務の方が向いている。だからこそ、企業のトップ等という面倒なだけの仕事を生業にできるのだろう。
「民間人の救出だね？」
「ああ、Cエリアの重要なポストについていた民間人ばかりが収容されている」
　トロワからの指示に、カトルはサンドロックを降りた。民間人の収容されているエリアには、ガンダムで近づけない。目立つガンダムを早いうちに放棄して、自分単独で動かなければ、敵の標的になってしまう。
　ヒイロをデュオが助けに、五飛はMDの始末を。そして自分に民間人の救出を頼んだと言うことは、トロワは自ら危険なブリッジの制圧に乗り出したのだろうと、カトルは推測した。
「・・・気を使って貰っちゃったかな？」
　呟いて、乾いた唇を舐める。ちらりと確認した見取り図には、敵の配置が事細かに付け加えられていた。きっと、デュオが情報屋と綿密に打ち合わせ、探り出した予想図だろう。目指すエリアまで、敵の少ないルートを割り出す。
　戦闘の予感に身を震わせ、カトルは銃を手に走り出した。

「そろそろか・・・」
　薄暗い室内で目を瞑っていたヒイロは独りごちた。
　眠っているようにしか見えない彼だが、実は機を狙っていたのだ。
　　ガァーンッ
　外壁の方から響く物音は、明らかにMS戦による爆音だった。
「デュオ・・・か？」
　飛び込んでくると予測していたが、こんなに早いと思わなかった。まだ、こちらの準備が出来ていない。
　ヒイロは、1人でゼクスの暗殺に手を汚す気だった。
　後悔しているのだ―――3年前に奴を殺しておくべきだったと。たとえリリーナが悲しもうと、殺しておけば戦闘は起きなかった。この事態を招いたのは、明らかに自分の非だ。ならば、自分の手でケリを付ける！
　きちんと調べられなかった上着から、拳銃を取り出した。鈍く光を弾く冷たい銃身を、両手で包み込む。現在たった1人の相棒を手に、ヒイロは行動を起こした。
　ドアはあっさりと開かれる。銃を持ったガンダムのパイロットに逆らう愚かさを、ドアの監視人は認識していた。
「ゼクスは、どこにいる？」
　尋ねられた男は、向けられた銃に怯えながらも首を横に振った。本当に知らないのだと、何度も繰り返す言葉は嘘ではない。
「ならば、ライは？」
「ブ・・・ブリッジです・・」
　当て身で男を気絶させ、周囲の動きを物陰から見守る。
　人の流れは本部から外へ流れている筈だった。デュオ、もしかしたら他の奴らも来ているのかも知れないが、奴の襲撃に本部は人手を割かれ手薄になっているだろう。そして今の人の流れは、左から右―――つまり、ブリッジは左！
　方向を決めると、ヒイロは人目につかないように行動を開始した。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....