W2×1　【MiyabihimeA】

「・・・・デュオ？」
　何も言えずに俯いている姿は、数千年を生きた魔物と云うより幼子のようだった。もう涙は止まったようだが、デュオはただ俯いて顔を上げない。
　恥ずかしくて顔を上げられないデュオの心境を察したのか、ヒイロの腕がデュオの頭を胸に抱えるようにして抱き締めた。そのままベッドに横たえ、あやす様に髪を撫でてやる。
　昔、まだ呪力が現れる前に母にしてもらった行為―――子供心に安心した記憶が残っていた。だから、デュオも安心できるだろうと思ったのだ。
「あの・・・ヒイロ・・・・、オレっ・・」
「大人しく寝ろ」
　一言で切られてしまい、どうしようか迷ったデュオは静かに目を閉じた。別に眠らなくても平気なのだけど、この空間を壊してしまうのが惜しい。しばらくこのままで居たくて、おずおずとヒイロの背に手を回した。拒まれる気配がないのにホッとしながら、体から緊張を解く。
　ヒイロの寝息が聞こえるまで・・・・・デュオは身じろぎすら禁じて、腕の中で目を閉じていた。

　眠ってしまったヒイロの腕からそっと抜け出し、窓の外を眺める。満月の月明かりの下を蠢く影を見つけ、剣呑な眼差しを向けた。
　さきほどから感じていた鬱陶しい感覚は、どうやら奴の気配だったらしい。こちらを探るような動きを見せていた影は、どこかの呪術師に使役される魔物だった。あまり力の強い魔物ではない。その証拠に、彼はデュオの正体に気づけなかった。デュオを人間だと思っているのだろうが、何も用心せずに近寄ってきた程度の、能力も魔力も低い存在だ。
　ったく、鬱陶しい奴・・・。
　微睡むヒイロの隣で感じた気配は、まなじ鋭敏すぎる感覚をもつデュオには、頭の中を爪で引っ掛かれるような不快感を齎した。昼間現れた王宮の呪術師の使い魔だと判断し、面倒事になる前に片付けようとデュオが動く。
　もし自分の地位を追われると判断した呪術師が、ヒイロを狙っているなら・・・否、ヒイロを監視するように命じられた可能性もある。どちらにしろ、デュオにとって不愉快な事に違いなかった。
　―――大切な主だ。
　自分が唯一の魔名を捧げた人を守るのは、使い魔としてもオレの立場からしても当然だった。世界中を敵に回しても守り抜きたい存在の周囲に、あの程度の醜悪で低能な奴が彷徨くのは許せない。
　・・・・・引き裂いてやる。
　残酷な本性が囁くまま、デュオは長く伸びた爪を唇に押し当てた。下手な剣よりよく切れる爪に舌を這わせ、物騒な表情で影を目で追う。
　解けたままの髪をバサリと掻き上げ、さらに身を乗り出そうとして・・・・・軽く引き戻される感じに後ろを振り返る。
　きゅっと髪の先を握るヒイロの指に気づき、デュオは微苦笑した。淡く浮かべた表情は、月光から逆光になってヒイロへ向けられる。振り解ける筈がなかった。
　小さく息をついて、窓の外の影を見送る。眇めた眼差しと、微かな嘲りの笑みがデュオの残忍な本性を物語る―――”見逃してやるよ”心の中だけで呟いた死神は、打って変わった優しい眼差しで主を見つめた。
　そっとヒイロの隣に滑り込み・・・デュオは再び目を閉じる。睡眠は必要なく、夢を見ることもないのに・・・こうして横になる行為に初めて安らぎを感じていた。
「・・ヒイロ」
　唇だけで声を出さずに呼んだ名が、青白い月光に解けていく。
　ふと、胸に痛みが走った。
　・・嫌な予感がする？
　しかし、目の前の主の寝顔を見つめるうちに、一瞬感じた予感が錯覚だった気がして、デュオは力の入った体をベッドに沈めた。
　起こさないよう気遣いながら、手に心地よい黒髪を指先で楽しむ。
　先ほどの予感など忘れ、青白い月光の差し込むベッドの上で目を閉じた。ヒイロの体温が直接肌に触れ、冷たくないだろうか？と身を引きかける。魔物であっても神族であっても、人間より体温は低いのだ。そんなデュオの懸念を吹き飛ばすように、ヒイロは触れたデュオの体に擦り寄る仕草を見せた。
　嬉しさに頬を綻ばせたデュオは知らない。
　神族の英知と魔物の強大な能力を以ってしても、未来を予測することは出来なかった。
　そう、後悔はいつだって・・・取り返しが付かない状況で訪れるのだから。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　入れそびれたHは・・・どこら辺で入れられるんでしょうか？
　ちょっと不安が増大し始めた綾雅●歳の夏でございます・・・。
　すでに「キリリク」の長さを優に超えて、ミニ小説？　否、SSすら超えている気がします。長編とまではいかなくても・・・・。このままでは長編に突入しそうで、それもまた怖い　←ブルブル

　不吉な終わり方でしょ？
　でも続くから安心して下さい。そんなに待たせずに先へ進みますので・・・・！！！