W2×1　【MiyabihimeA】

「いや、構わない。同行すると決まった時に説明するべきだった」
　そして口を開きかけたヒイロは、しかし続きをノックに遮られた。
　　コンコン
　不審そうに顔を顰めるデュオが、ドアの向こうを確認する。目を眇めただけに見える所作で、不可視の領域を見通した。
「男が数人、あの制服は王宮勤めかな・・」
　呟いたデュオの言葉に、ヒイロはがっくりと肩を落とした。
　応答がない室内の様子に、再びノックが響く。その感じは、彼らが中にいると知っているようだった。店主にでも聞いたのだろう。
「・・どうする？　追っ払うか？」
　デュオなら簡単だろうが、騒動が大きくなるのは目に見えている。周囲への被害も甚大だろうから、悪評が広まる可能性大だ。一瞬で判断したヒイロは、目の前で笑う美女にしか見えないデュオの危険性を、正確に理解していた。
「いや・・いい」
「そう？」
　ちょっと残念そうな声を出しながら、デュオはドアを開ける。追い払わない以上、居留守は長く続けられるものでもない。
「ヒイロ殿にお会いしたい」
「どうぞ」
　丁寧に挨拶する男達を招き入れ、デュオは意味ありげにヒイロに寄り添った。椅子に座るヒイロの足元に寄り添って床に座ると、スカートに似た長い裾を優雅に広げる。ヒイロを見上げる従順な姿は、どうやら男達の危険認識を避けることに成功したようで、彼はまんまと追い出されずに居座った。
　もともと床に座ってヒイロを見上げるのが好きなデュオのこと、他人の目など気にしない。
「こちらの女性は・・・」
「連れだ」
　恋人とも妻とも取れる微妙な発言に、デュオが笑顔を添える。黙っていれば、どうみても完璧な美女なので、男達はそれ以上の素性を追及しなかった。
「突然の訪問をお許し願いたい。高名なヒイロ殿のご来訪に、王がぜひお会いしたいと申されまして・・・・」
　その後の云々は置いておくとして、丁寧な言葉と慇懃無礼な態度に覆われてはいるが、どうやらヒイロにこの国にとどまって王宮付きの呪術師になって欲しい・・・というのが、本音らしい。
「どうするの？」
　首を傾げて尋ねるデュオは、複雑そうな顔をしている。
　宮仕えという考え方は、神族や魔物にも共通のものがあった。神族は序列にうるさいし、一見自由に振舞う魔物でさえ能力や権力によるピラミッドは存在する。だから状況は理解できるが、デュオ自身は例外中の例外だった為に、誰にも属さずに自由に過ごしてきた。
　ヒイロが王宮に行くなら付いて来るのだろうが、あまり好ましくないと思っているのだろう。なまじ長く生きてきた分、王族や権力者の身勝手さを良く知っているから、ヒイロを醜い権力闘争に巻き込みたくないと考えているのだ。
　視線を合わせた先で、ヒイロは言葉より雄弁な眼差しで答えた。
　すなわち”面倒くさいから嫌だ”と。
「・・・私のような若輩者は、王にお目通りするには早すぎます」
　暗に”お断りします”と告げているにも関わらず、使者達は笑顔でヒイロの言葉を否定する。
「いえいえ、ご謙遜を」
「王はヒイロ殿の実力を考慮されたうえで、王宮付きの法術師の地位をご用意されて・・」
　術師の中で最高位の「法術師」をチラつかせる大国の使者は、これでヒイロが落ちると思っているのだろう。感情の見えない笑顔で誘いをかける。
「もちろん、屋敷も報酬も望むままにご用意させます。きっと、こちらの方にもご満足いただけるでしょう」
　足元でヒイロの膝に両手を預けて見上げる美女を示してのセリフに、デュオはにっこりと笑顔を向けた。一見すると優美な仕草で、しかし冷たい声色で切り返す。
「贅沢に興味はないし、ヒイロだけいればいい」
　すぐにヒイロに視線を戻し、うっとり見惚れるような笑顔でヒイロに接吻けた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　デュオ・・・美女？！
　使い魔は吸血鬼の方と違って、かなりデュオの考え方が柔軟ですなぁ・・・・。

　軽い説明をするなら、一応神族にも性別はありますが・・・基本的に装う姿だけで本質は中性。女神となっていても、外見は女性でも中身はどちらでもないという不思議な存在です。
　なので、子供は生むというより創り出すという表現の方が近い種族なんですね。つまり、デュオがその気になれば、神族復活は可能という意味。
　ちなみに、デュオは神より魔物の方が自分に近い本質を持っていると思っているので、今のところ神族復活にまったく興味はありません。