W2×1　【MiyabihimeA】

　ミカエルの新たな情報に、潜入しているトロワを除いた4人は、一週間ぶりに顔を合わせていていた。
「迂闊に手が出せないぜ・・」
　呟くデュオに3人が賛同する。
　民間人を犠牲にしようと思わない限り、作戦を立て直す必要があった。
　やっとお家騒動を収めたカトルは、先日からヒイロと情報集めに奔走している。デュオは、五飛の派手な戦闘の陰で、見えない敵となって新FWに打撃を与え続けていた。潜入したトロワからの情報は、五飛やデュオの作戦行動に大きな貢献をしている。
　つまり、5人の行動が順調すぎて、新FW側が焦り始めているのだろう。ゼクスが指揮を執っているとは思えないほどの醜態を演じ続けていた。
　そして、ついに彼らは民間人を盾にする卑怯な作戦に転じたのだ。
「どうするんですか？」
「・・・作戦ならある」
　ヒイロはすでに考えていた作戦を展開することにした。

　民間人を救出する役目をカトルとデュオに任せる。五飛がMDの目を引き付け、その間にデュオがコロニーに接近する。コロニー周辺に残っている僅かな敵を片付け、カトルが動かし得る最大限のシャトルを動員して民間人を救出、すでに制圧した第1から第5コロニーに移動させるのだ。
　タイミングさえ合えば、不可能な作戦ではない。そしてタイミングを計るのは、司令塔であるヒイロの役割だ。トロワからの定時連絡を待って、4人はこの作戦の実行を決めた。
　トロワが齎した情報は、この作戦に必要不可欠なものだった。兵士の配置から監視役の交代の時間、MD制御室の位置に至るまで、実に役立つ物ばかりだ。
「―――以上、作戦を実行に移す」
　ヒイロの作戦説明に、五飛とカトルは真剣な表情で頷いた。
「待ってくれ、作戦の内容はいい。だが、指令本部はどこに置くんだ？」
　指令本部――すなわちヒイロ――があまり作戦地より遠いと、連係プレイが命の作戦では、それ自体が致命的なミスになりかねない。
　隠密行動でいままで敵を撹乱してきたデュオは、距離が多いほど妨害電波の影響を受けやすい通信の撹乱や、ミスが生じたときの修正のタイムロスがどれだけ怖いか、身に染みて知っていた。
「第1コロニーを予定している」
「それだがな、第1から第5コロニーは誰が守るんだ？　とてもじゃないが、オレや五飛は手が回らない」
　デュオが指摘した事実は、すでにヒイロの中で消化済みの問題だった。
「カトルだ・・」
「シャトルの指揮は？」
「全体の行動は俺が指示する。現場での指揮権は、デュオ・・お前に一任する」
　ヒイロの案を頭でシミュレーションしてみる。現場と全体の指揮では食い違いが出ることもあるだろう。やっぱり危険すぎる。
「ダメだ。シャトルの指揮が2系統では混乱するだけだ」
　さっきからヒイロの作戦計画に文句をつけてばかりのデュオを、カトルが怪訝そうに見つめる。デュオがただ突っかかっている訳じゃないのはわかる。彼の言う事に一理あるのも確かだった。しかし、ただの意見交換だとは思えないのだ。
　閃きに近い直感だった。
　カトルはある意味正しい。
　本人達に自覚はなかったが、デュオはヒイロへの不安を・・ヒイロは自分の行動の為にデュオを引き離そうと、それぞれ意図があっての言い合いだった。
「オレが直接指示するのは、ガンダムに対してだけだ。全体を見て指示するから、お前はソレに基づいてシャトルの指揮をしてくれればいい」
　デュオの負けだった。これ以上は感情だけの言い合いになってしまう。作戦には非の打ち所がなく、納得するしかなかった。
　トロワの情報と、今まで仕入れたCエリアの設計図などを照らし合わせて、作戦は実行されることになった。

　五飛が出撃するのを見送って、デュオはヒイロに向き直った。カトルはすでにウィナー家に戻り、シャトルの手配をした筈である。
　ヒイロ～地球の世界国家に、デュオからコロニー最高議会に、それぞれシャトルでの救出作戦は連絡している。
　各上層部は「ガンダムパイロットにばかり負担を強いてしまうが、すべてを一任する。責任は我々がとる」との返答を送ってきていた。
　作戦についての不安は、五飛の誘導をゼクスが見破るかどうかの一点だけだ。
「ヒイロ、オレ・・おまえに聞きたいことが・・・」
「作戦の後ににしろ。気をつけて、デュオ」
　デュオを目を見開いた。優しく触れた感触に、ヒイロの蒼い目を凝視する。
　ヒイロからのキスは、柔らかくてしっとりしていた。
「あ・・・っ」
　デュオが何かを口にするより早く、ヒイロはデュオの体をデスサイズ・ヘルの方へ突き飛ばした。軽く手を振るヒイロの姿が、だんだんと遠ざかる。
「ヒイロッ！」
　ガンダムのコックピットの縁に手をかけて、無重力で遺憾なく発揮されている慣性の法則に歯止めをかけた。叫んだデュオにヒイロは振り向いたが、暗くて表情がわからない。
　ヒイロのほっそりした体は、すぐにシャトルへと消えた。第1コロニーに向かうために用意していたものだ。
　不安が一気に膨らむ。もやもやした気持ちが、形にならずにデュオを責める。
「・・ヒイロ・・・」
　ただ、愛しい人の名を呟いた。
　自分の情けない声を振り切るように、デュオは黒い機体に乗り込んだ。馴染んだシートは、ふわっとした安心と戦闘前の高揚感を齎してくれる筈なのに、ただ不安だけが増大していく。
　戻ってきても、ヒイロは居ないんじゃないだろうか・・・。そんな不安な考えを振り切るように、デュオはガンダムを発進させた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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2010/05/18誤字修正（ご指摘感謝します♪）