W2×1　【MiyabihimeA】

　なのに今、彼らは交戦中なのだ。
「ガンダムだ！」
「どうするんだ？」
「おれ達じゃ敵わねぇ・・」
　ざわめきが組織の回線を満たした。
　1ヶ月前にも同じようなことがあった。生還したパイロットがいないため確証は取れないが、あの時もガンダムが相手だったらしい。
　しかし、何も知らされていない末端の兵士は、ただ「戦え」と言われて戦っているだけなのだ。目の前に最強の敵が現れ、一気に士気が落ちる。
「ガンダムのパイロットとして、宇宙の平和を乱す貴様らを排除する！！」
　通常回線からの五飛の戦線布告は、新WF、地球の世界国家、コロニーの最高議会にしっかりと届いた。
　五飛の勝手な戦線布告に、ヒイロ達の方がびっくりしていた。予定にない行動に、一瞬制止しようかと思ったが、すぐに思い直す。
　これで地球やコロニー側にガンダムの行動を誤解される心配はなくなる。ならば、どうせ戦う相手なのだ。きちんと敵対表明しておいた方がいいのだろう。
　それに、すでに五飛が布告してしまった以上、いまさら取り消しもできない。デュオとヒイロが2人で作戦を行った頃のように、もうガンダムの存在を隠す必要性は認められなかった。
　新WFの連中は知らなかったが、非武装宣言の行われた会場で公開爆破されたエピオンを除く5機のガンダムは見かけだけの張りぼてだった。
　コロニー側も地球側も納得の上での、デモンストレーションだったのだ。
　一切の名誉も地位も拒否した彼らへの、代償とでも言うのだろうか。ガンダムの処分はパイロットに一任された。
　そして―――ガンダムは3機、現存している。

「いくぞ！　ナタクッ」
　ツインビームトラインデント（三又矛）をくるくる振り回し、斜めに構える。
　戦士として、一通りの武術を極めた五飛にかかっては、ただの兵士など相手にならなかった。次々に破壊されていく。
　囮としての任務（本人はあくまでも先鋒だと思っている）は、派手に動き回り相手の目を引き付けること。五飛にそんな考えはなかったが、結果的に彼の行動は見事に囮としての役割を果たしていた。
　Cエリアの端から切り崩していく―――ヒイロの決めた順序どおりに、第1コロニー側から攻め込む。
　敵の半分以上はモビルドール（以後MD)だ。何時の間に量産したのやら、各コロニーの周辺にかなりの数が配備されていた。
　3年前の最終決戦の際に戦ったビルゴⅡとよく似た機体だが、あれからさらに改良されたのだろう。以前より戦闘力は格段に上がっている。
　だが、所詮MDはMD―――五飛の敵ではなかった。
　第1コロニーから第5コロニー周辺に散るのは、全部で20機。五飛とナタクを打ち破るには、あまりに数が少ない。
前方の敵をトライデントで突いた瞬間、連動した動きで1機のMDが背後に回りこんできた。振り向きもせずに、2基のビームキャノンで撃退する。
「弱い！　これで宇宙を変えようというのか！！」
　悪の弱さを認めない五飛らしいセリフが、口をつく。13機を片付けたあたりから、敵の動きが変わった。以前の戦いのように、誰かが『ゼロシステム』を使用しているのだ。
「それでこそ、悪だ・・・ッ！」
　悪は強く、正義はそれより強くなくてはならない。五飛が己に課した言葉は3年経った今でも、彼の行動の礎になっていた。

　残りの7機が、ナタクを囲い込もうと動き出す。包囲網が完成しないうちに、五飛は先制攻撃を仕掛けた。
　よく「攻撃は最大の防御」と言うが、五飛の場合は「先制が最高の攻撃」になってせいまうらしい。その凄まじい攻撃の前に、敵は嫌でも四散する。
　アルトロンは、先制攻撃と接近戦を前提に作られたガンダムであり、攻撃力は高く設定されたが、防御はあまり重要視されず、五飛への指導も自然と攻撃が中心になり、防御に徹する闘い方は不要だと教えられた。
　頭上でトライデントを浅海させ、右手で斜に構える。前後どこからの攻撃にも対処できる構えに、3機が一度に突っ込んできた。
　薙ぎ払う動作で、1機を粉砕する。
　ほぼ同時に二頭龍（アルトロン）の由来になったドラゴンハングが、宇宙の真空など物ともせずに火を吹いた。左のドラゴンハングの熱が収まりきらぬまま、もう1機を焼き尽くす。
「あと4機・・・」
　呟く五飛の鼓動は高鳴り、3年振りのナタクを駆っての戦いに高揚する気持ちを抑えきれない。乾いた唇を軽く湿らし、残る4機との間合いを計った。
「来ないか・・・ならば、こちらから行くまでッ！」
　正面の敵から打破する。
　彼らしい無駄のない動きで、一気にトライデントの間合いに入り込む。上段から振り下ろし、爆破の瞬間には左に飛びのいた。
　左右をモニターで確認する。ガンダムの目が見つけた敵の姿が、モニターを通じて五飛の黒い瞳に映った。
　先に動いたのは左の2機だった。右手で脇に挟んで構えた矛に左手を添える薙刀の構えに近い姿勢から、一気に左手に持ち替えて斜めに切り捨てる。
　大気のない宇宙空間では、爆破の炎は数秒で消えてしまう。媒体の空気がない為に、爆音もない。しかし、爆破によって拡散する質量の移動が、近くに存在するものに少なからず影響を与える。
　五飛は、ナタクと共に爆破の衝撃に身を委ねた。激しい揺れが機体を襲う。
　戦いの余韻が消えるのを待って、五飛はその空域を離脱した。
　新たに決め直した5人の通信回線のうち、自分に宛がわれた回線から、ヒイロにアクセスする。かすかなタイム・ラグ、そして回線はヒイロの自室にセットされた端末に繋がった。
「終わったのか？」
　短い確認に、五飛が頷く。
「奴ら、MDに『ゼロシステム』を対応させていた・・・」
　五飛の報告に、ヒイロは唇を噛んだ。
　ゼロシステムで一度に多くのMDを操作する方法は、3年前にゼクスが考案して実行した。ゼクスが敵ならば、戦力増強の為に使ってくることは十分に予測できる範囲だ。
「・・・わかった。トロワからの情報が入り次第、連絡する。以上だ」
　通信は、回線の割り出しが行われることを前提に、短く用件のみで切ることにしていた。ヒイロの姿が消えると、五飛はウィナー家の所有する資源衛星のひとつに方角を定めると、流星のように加速した。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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2010/05/18誤字修正（ご指摘感謝します♪）