W2×1　【MiyabihimeA】

　やっと事情がつかめたデュオは、溜め息をついてカップの紅茶を飲み下す。
「つまり・・オレって公的には”ヒイロの愛人”みたいな感じなのか？」
　苦笑しながらの言葉に、ヒイロは赤面し、五飛は頷いた。同じように苦笑しているトロワを示して、デュオが首を傾げる。
「だとしたら、トロワは？」
「おれは長老に挨拶を済ませている」
　ずっと無言だったトロワは、緑の目を和ませながら告げる。ちょっと天井を仰ぐような仕草を見せたデュオは、解けたままの髪をばさりと掻き上げた。
「なぁ、ヒイロ・・」
「どうした？」
「オレも挨拶しに行った方がいいの？」
　目を見開いたヒイロは、すぐに表情を柔らかいものに変えた。陽光を浴びて赤毛に見える髪を指に絡めて、五飛に頷いてみせる。
「お前が出向く必要はない。ヒイロは一族の頂点たる存在、俺の見届けだけで済む」
　五飛は言い切ると立ち上がり、隣のトロワが腰を抱き寄せるのを許した。綺麗に撫で付けた髪が揺れ、ほんのりと甘い香りがする。どこかで嗅いだ香りに、デュオの記憶が刺激された。
「長老達には俺から伝えよう。確かに見届けたからな」
　じっと見つめるヒイロに丁重な礼を贈ると、五飛は意味ありげに笑った。
「守護者でなく、伴侶だと伝えて構わないだろう。また会おう」
　反論するより先に踵を返した五飛に、大人びた風貌のトロワが付き従う。陽光の中を歩く2人を見送ったデュオは、はたと気づいて目を泳がせた。
「なぁ、五飛が陽光平気なのはわかるけど、どうして人間から吸血鬼になったトロワも平気だったんだ？」
　もっと早く気づくべき点だった。人間から吸血鬼になった者は、陽光の下では苦痛しか感じずに滅びてしまう筈だ。元ハンターの知識で問いかけるデュオの髪に手を遊ばせるヒイロは、口元を笑みに歪めた。
「アイツは賢い。自分の中の不死の民の血だけをトロワに流し込んだのだろう。混血でありながら、完全な純血種と同じ体を作り出した五飛と、デュオ・・お前と同じ不死の民の血を引く存在になったトロワなら、陽光は牙をむかない」
　自分の中の混血の部分である不死の民の血だけ分離して、トロワに与える？　そんなことが出来るんだろうか・・・・確かに吸血鬼は多様な能力を持っているが、不可能なことは存在すると聞いているから、疑問が表情に表れた。
「五飛の能力は俺と違う。彼には可能だ」
　言外に自分では出来ないと言い切ったのは、混血故に彼に現れた能力だという意味だろう。頷いたデュオは、まだ髪を弄っているヒイロを抱き寄せた。
「しかし、アイツ強かったな・・・」
「そうだろう、五飛は戦士であることを自らに課している」
　おそらく、純血種であるヒイロを守り抜くために手に入れた力なのだ。格闘戦のセンスは十分過ぎるほどで、不死の民の血を持っていたなら、今よりさらに強かっただろう。
　戦闘時のスピードと力、センスなど、すべてが不死の民の能力のひとつで、五飛は手放してしまった血の力だけど・・・。
「・・・・？　ちょっと待て・・・・」
　一瞬呟いて考え込んだデュオはヒイロの顔を覗き込んだ。
「なぁ、トロワは人間と不死の民の混血ってコト？」
　頷いたヒイロの指を持ち上げて接吻け、絡みついた髪を解し始める。いつのもように三つ編みを編み、ゴムで止めて背に放った。
「なら、トロワはオレと同族になるのか・・・」
　ふ～んと納得しながらの言葉に、ヒイロはピクンと体を揺らした。
　何か気になる事を言ったっけ？　不機嫌そうな恋人の表情を読みながら考えていれば、整えたばかりの三つ編みを引っ張られる。
「どうしたの？　ヒイロ」
「・・・お前は・・・っ」
　唇を噛んだ姿に眉を顰め、床に膝をついてヒイロを見上げる。覗き込むようにして窺えば、尖らせた赤い唇が再び開かれた。
「・・・トロワが気に入ったのか？」
　・・・・焼きもち？！　まさか、ヒイロが？
「どっちかって言えば、五飛のが気が合いそうだな。もちろん友達としてで・・愛してるのはヒイロだけだから―――なぁ、そんな顔するなよ」
　そっと頬を両手で包んで、目を合わせる。吸い込まれそうな引力の蒼い瞳が瞬いて、じっと自分を映し出してくれる。これ以上の幸せを知らないから、笑顔を浮かべて接吻けた。
「愛してるよ、ヒイロ」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　愛人デュオ・・・・爆笑！
　そっか、長老への挨拶を怠っていたということは、「ヒイロをください！」ってお願いしてなかったデュオ。勝手に箱入り吸血鬼ヒイロを食ってしまって、ついでに血を差し上げてしまって・・・もう複雑ですね～苦笑。