W2×1　【MiyabihimeA】

「・・・なんでも、ない」
「愛してるよ」
　囁いて唇を重ねれば、ヒイロがぎゅっと首に手を回した。身長差の所為で引き寄せられ、そのまま腰に手を回して抱き上げてやる。
　甘えた仕草は珍しく、常に2人でいると嫉妬さえ忘れてしまうのだと、今更ながらに思い知った。出会った当初のヒイロの無表情の意味が、ようやく実感できる。長い時間を生きていると、徐々に感情が刺激されなくなり希薄になるのだろう。
「・・・・・これが、あのヒイロ・ユイとは・・到底信じられん」
　愕然とした様子の五飛に首を傾げるデュオは、以前のヒイロを知らない。だから五飛の驚きは実感がなく、そんなに違ったのだろうか？と疑問が浮かぶ程度だった。
　首筋に唇の温もりを感じたデュオは、そっとヒイロを抱え直した。
　触れやすいよう、頚動脈を晒してやれば、血を飲み下す微かな音が聞こえる。鼓動の音に似て安心できる音―――本来自分の血を分け与えることは、死に繋がる恐怖を生む筈なのに、正反対の想いが込み上げていた。
　この血がヒイロの体を生かしていると知っているから、吸血行為はキスと同じ愛情を伝える行為でしかない。
　デュオの血を飲んで頬を桜色に染めるヒイロを下ろしてやると、右手の爪で左手首を軽く切る。ヒイロの行為を予想していたデュオは、少し眉を顰めたものの無言で見守った。
「五飛、傷を」
　差し出される左手を五飛の右手の傷の上に置く。垂れた血が癒していく傷口は、瞬く間に消えてしまった。完全に傷が消えると、ヒイロは無造作に左手をデュオに差し出す。
「デュオ・・」
　恭しく接吻けて、表面の血を舐め取った。ヒイロの傷は五飛のそれより早く消えてしまう。デュオの体液が持つ治癒能力は、吸血したヒイロにも遺憾なく発揮されていた。
「助かった」
　トロワの礼を受け流し、デュオは格闘の所為で荒れた室内を見回し、廊下を目で指し示す。
「奥でお茶でも飲もうぜ。ここは散らかり過ぎだ」
　同意した3人を伴って、部屋を後にした。

　ヒイロの指示通りにお茶を用意し、デュオは恋人の隣に腰を下ろした。いつものように肩を抱けば、軽く頭を預けて寄りかかってくる。気位の高いヒイロがここまで甘えるのは珍しいので、デュオは上機嫌だった。
「五飛、訪問は事前に知らせろ。・・デュオに殺されるぞ」
「確かに”死神”の噂以上の腕前だった」
　死神と呼ばれたハンター時代のことを持ち出され、以前にヒイロに言われた「夜の世界でも有名だ」を思い出す。
「へぇ、知ってるんだ」
「知らないものの方が少ない。人間だったおれも知っていたくらいだ」
　穏やかなトロワの声は、なぜか説得力があって頷いてしまう。
　ヒイロと違う過激な性格の五飛が、どうしてトロワを選んだのか―――なんとなく分かった。自分にない物を求める、それは人間でも吸血鬼でも同じようだ。
「光栄だね。で、五飛はどうしてオレに殺気を向けた？」
　城に戻る前、転寝していたデュオが感じ取ったのは”殺気”だった。敏感に反応したのは、生存本能の賜物でもある。離れていても目の前にいるみたいに感じた殺気は、肌をビリビリ痺れさせる程だ。
「・・ヒイロが側に置く存在がくだらない奴なら、この手で殺そうと思っただけだ」
　意味を捉えかねて眉を顰めたデュオは、白磁のポットから紅茶を注ごうとしているヒイロに気づいて、その幼い手からポットを取り上げた。そっとカップに注いでやり、目の前で空になっている五飛とトロワのカップにも別のお茶を淹れた。ヒイロの指示で用意したお茶は、匂いも味もヒイロの紅茶と異なっている。中国茶というらしい。
　小さな声で響いた礼は、どうやら礼儀に煩い五飛のようだ。
「五飛は昔から過保護だからな」
「一族最後の純血種だ。死なせる訳にはいかない」
　使命感があるような五飛のセリフに、デュオはトロワに目を向けた。同じように意味を掴みかねているトロワに安心し、問いかけを放つ。
「なぁ、意味がわからないんだけど・・・五飛って純血種じゃないのか？　それになんでオレが狙われるわけ？？」
　愛用のカップをソーサーに戻したヒイロが、小さく笑った。
「五飛は、純血種と不死の民の両方の血を引いている。眠りに付くまでは俺の守護をしてくれていたが・・・目覚めてからはデュオがいるからな。彼を呼ばなかったんだ」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　だんだんと長くなるぅ～～！
　ああ・・・・どうしたらいいのだらう・・・・汗。
　五飛は、純血種であるヒイロの叔父と、吸血鬼と不死の民のハーフだった女性の間に生まれたので、限りなく純血種に近いけれど混血なんですよ。
　トロワとの出会いも書いてみたい・・・。
　長老は長生きしているようですが、実際にはヒイロより年下ばかり。吸血鬼集団を纏めているんですが、本来頂点に立つべきヒイロが自分勝手に飛び出してしまい、お目付け役兼守護者として五飛を派遣していたんです。ところが長期の眠りに入ってしまったヒイロを残して離れている間に、デュオがちゃっかりとヒイロの隣をせしめてしまった・・・・という・・・・。しかしデュオとヒイロの出会いから8年経ってますから、彼らののんびりした時間間隔はたいしたもんです（苦笑）