W2×1　【MiyabihimeA】

「ああ、そうだった・・」
「俺は先鋒だ！」
　何時の間に下りてきたのやら、五飛はデュオの後ろから声を上げる。
「はいはい、わかりました！　勝手に先鋒でもなんでもやってください」
　投げやりに肩を竦めるデュオに眉を顰めはしたものの、希望が通ったこともあり五飛は嬉しそうである。
　近くにあるナタクのコックピットに入り込むと、なにやら弄くり始めた。それに付いてトロワがナタクによじ登り、五飛と何やら話し込んでいる。
「・・・囮が決まっちゃったから、囮を使う作戦を考えてくれ・・」
　五飛が聞いたら「囮ではない！！」と怒りそうだが、隠密行動を得意にしてきたデュオに言わせると「囮も先鋒も同じ」になる。
　疲れたデュオの声に、それまで黙って成り行きを見守っていたヒイロがやっと発言した。
「俺にひとつ案がある・・」
「言ってみて」
　カトルの促しに、ヒイロが頷いたとき―――、
「こっちへ、集まってくれないか？」
　トロワらしくない落ち着きない声に、3人は一様に振り返る。冷静沈着を絵に描いた感じのトロワの顔色が青ざめていた。
　まず、真っ先に動いたのはヒイロだった。続いてデュオ、最後にカトルの順にナタクへよじ登る。
　お陰でナタクのコックピット周辺では、トロワと五飛が覗いていた画面に、全員が顔を突っ込んで眺めるという一種異様な状況になっていた。
　もともとコックピットは子供用でしかも1人用・・・ということは狭い。中に入れるのは五飛だけなので、当然トロワほか4人はさまざまな場所に手足をひっかけて中を覗き込むという、究極のロック・クライミング状態だ。
「おいおい・・・冗談だろ？」
「こんなことが？」
　信じられない放送だった。五飛が受信した放送はコロニーでは一般的な民間放送で、これは「正確な情報を、いち早く」が合言葉のニュース番組だ。
　きれいな女性ニュースキャスターが、よく通る声を震わせていた。
＜ただいまこちらに入ってきました最新の情報によりますと＞
　テロップが、最新情報を文字でも伝えている。素早く読んだカトルが、誰もが信じられなくて呆然としている情報を口にした。
「Cエリアが・・占拠された？」

＜繰り返してお伝えします。
　L1コロニー群とL2コロニー群の間に建設中でした、議会行政の中枢になるK53コロニーを含むコロニー群Cエリアが、先日の式典爆破テロ事件と同一犯と思われる武装集団に占拠されました＞

　唇が紡いだ事実に蓋をしようと、口元を押さえたカトル。
　青ざめた顔のまま、画面に見入るトロワ。
　込み上げる怒りに拳をたたきつける五飛。
　ちっと舌打ちし、指が白くなるほど拳を固めたデュオ。
　血の気のない顔で、血が滲むほど唇を噛んだヒイロ。

　5人の反応に追い討ちをかける女性キャスターの声に、ヒイロが大きく息を吸い込んだ。
「なんにしろ、俺たちは後手に回り過ぎている」
　誰も反論できなかった。そして、後手に回った事実は、大きな犠牲の数を伴って胸に突き刺さる。
　議会行政の中枢になるK53コロニーを含むCエリア―――建設中といえ、コロニーとして最低限の昨日はすべて完成し、作動していた。
　少なくとも工事関係者や行政関係、コロニーの空調や人工重力を操作する人間を含め、1つのコロニーに最低でも1万人はいる計算になる。
「・・カトル、Cエリアのコロニーの正確な数は分かるか？」
　掠れたヒイロの問いかけに、カトルは爪を噛んだ。記憶を必死で探る。
「僕の記憶では36だったと・・・・いえ、間違いなく36です！」
　Cエリアの開発については、計画段階からウィナーケガ関わっていた。その財力と機動力を買われてのことだったが、カトル自身の罪（3年前にコロニーをウィングZEROで破壊した）を償おうという方針からもきている。
　エージェントとしてのカトルの実力を知る4人は、その記憶力を疑おうとせずに頭の中で計算の一部に加えた。
　1つのコロニーに1万人、コロニーは36―――36万人？！
　・・・・・！！
　一斉に5人は頭を上げた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....