W2×1　【MiyabihimeA】

　飛び込んだ自室で着替えを済ませると、ソファで紅茶を飲んでいたヒイロに駆け寄った。抱きつこうとして、ヒイロがカップを手にしていると気づいたデュオは、急ブレーキで止まる。
「お待たせ♪」
　毎週思うのだが、何がそんなに楽しいのだろう？
　デュオも高校3年になり、幸い成績は優秀なので進学の心配は要らないものの、通常なら友人や恋人と出かけたがる年齢だ。アメリカなどでは家族を大事にするというが、それにしても度を越している気がした。
「・・・ああ」
　じっと見つめれば、きょとんと首を傾げて見下ろしてくる弟。身内の贔屓を捨てても、十分格好いい男だと思う。長い三つ編みが気障な気もするが、何やら理由があって伸ばしているらしいし、実際彼には似合っていた。腰まで届く髪と整った顔でも女性に見えないのは、デュオの持つ雰囲気が影響しているのか。
　普段から黒を好むデュオは、今日もお気に入りの黒いシャツを着崩している。ジーパンを腰で履き、中のタンクトップは目に鮮やかなブルーだった。シルバーの黒ずんだアクセサリーが揺れる。
「ヒ～イロ♪　出かけようぜ」
　最初はたどたどしくて聞き取れなかった日本語も、気づけばペラペラ操っている。基本的に苦労せずに出来る器用なタイプらしい弟は、ヒイロの黒髪を弄くって笑った。
「そうだな」
　立ち上がれば、当然とばかり隣に並んで歩く。欧米体質のデュオは、ここ半年で急激に背が伸びた。少し前までは同じ高さだったのに、今では10ｃｍほど高い視線。
　1年前はいなかった弟の存在が、いつの間にか当たり前の日常になっていた。

　まだ早いから駅前で少し時間を潰そうと提案され、ヒイロは駅前のロータリーに腰掛けていた。飲み物を買ってくると走っていった弟はまだ戻らない。ぼんやりと人の流れを見つめていれば、突然肩を叩かれた。
「ねぇ、1人？」
　振り返った先に、ちょっと軽そうな男が2人立っている。何故声をかけられたのか、分からずに見つめるヒイロの肩を馴れ馴れしい仕草で抱き寄せて座る男に、嫌悪感が募った。
　むっとして手を叩き落とせば、もう1人が正面に立ってしまい、立ち上がって逃げることが出来なくなってしまう。どうしようかと目を伏せたヒイロだったが、
「・・・誰の連れに手を出してんだよッ！」
　普段聞いたことがない物騒な響きで、しかし聞き慣れた声が耳に飛び込む。突然正面の男が後ろにひっくり返り、襟首を掴んだデュオの行動だったのだと気づいたヒイロが止める間もなく、転がった男を踏みつけている。
「何しやがるっ」
　弟が起こした騒ぎに呆然としていたヒイロは、隣の男の叫び声に我に返った。
　そうだ、止めなくては！
「デュオ、突然何を・・」
「ヒイロは黙ってて！」
　手に持っていた飲み物を渡され、反射的に受け取ってしまう。助けを求めて周囲を見れば、遠巻きにして巻き添えを恐れる群集がいる。しかし散ってしまわないのは、面白がっているのが半分以上だろう。
「この界隈でオレの連れに手を出すバカは、しっかり躾しなくちゃな」
　にやっと笑ったデュオに、周囲から歓声が上がっている。口々に叫ぶ内容に、どうやらデュオはこの辺で有名らしいことが知れた。
　まったく心配していない周りの浮かれた様子から、どうやら自分達が不利だと気づいたらしい男2人は顔を見合わせている。
「こっちには、おまえの女がいるんだぜ？」
　どうやら一番卑怯な手段に訴える気になったらしい。隣の男に腕をつかまれ、渡されたジュースを落としてしまった。
　だが、次の瞬間デュオの表情が変わる。
「へぇ～、腕の1本じゃ済まなくなるぞ」
　凄んだハンサムは迫力があった。ヒイロの腕を掴んだままの男は、気圧されて後退る。
　一見デュオが不利な状況に見えたが・・・・思わぬ伏兵がいた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　ああ・・・ヒイロ。女性と勘違いされてます。
　微妙に弟君を意識しちゃってる感じを出したいんですが・・どうでしょう？　成功していますでしょうか？？