W2×1　【MiyabihimeA】

「包帯を巻くほどのケガかっ！」
　指摘は的確だった。そう、サーカスの興行で参加できなかったトロワを除いた3人は、昨日の任務を無傷で切り抜けている。
　さすがガンダム・パイロットと評価を上げたばかりだった。
　こうしてケガをしている筈もなく・・・・しかし、きっちり巻かれた包帯は、熟練看護師並みの絶妙な巻き具合である。当然デュオの手によるものだった。一流エージェントの嗜み・・・というか、必要な教養なのだ。下手な医者より、彼らはケガや応急処置に詳しかった。
　しかし傷は浅い。
「ちょっと刃物が掠っただけで、大げさすぎる。軟弱者め！」
　昨日の出来事だった。
　任務疲れの体に鞭打って報告書を仕上げる中、ヒイロはお気に入りのケーキを引っ張り出して、自分の分を切り分けた後・・・少し迷ってデュオを振り返る。自分の分まで報告書を仕上げてくれている恋人に、ちょっと親切心を出したのだ。すなわち、ケーキを切り分けようとした瞬間―――ナイフが滑って落ちた。
　咄嗟に手を出して掴んだヒイロの右手のひらが切れ、気づいたデュオの悲鳴に驚き、また落としたナイフを今度は左手でキャッチ・・・こうして両手に切り傷を作ってしまった。
　床に落ちる前にキャッチするヒイロの反射神経は、さすがL1最高のエージェント、元ガンダム・パイロット。だが、手のひらで受けたのはいただけない。それでは生傷が絶えないだろう。
　表皮を薄く切っただけの傷は、五飛の言葉通り”包帯を巻くほどのケガ”ではなかった。
「何言ってるんだ！　ヒイロの玉の肌に傷だぞ？」
　何しろ、昨日のヒイロの右手に流れる血に卒倒しそうになって悲鳴をあげ、あまつさえ左手にも切り傷を作ってしまったのだ。ケーキの切り分けくらい、オレに言いつければいいのに・・・。
　あれは完全な自分のミスであり、監督不行き届きだと、昨夜は責任を感じて眠れなかった程である。おかげで、美味しいデザートを沢山作ることが出来て、ヒイロもこうして満足してくれている訳なのだが・・・。
　とてもスイーパーでテロリスト相手に銃をぶっ放しているエージェント、しかも死神とまで呼ばれる男とは思えない。殺された他の組織の方々は情けなさに、草葉の陰で泣いてるだろう。
「重傷なんだから、大事にしなくっちゃ！！」
　力説するデュオに手を預けたまま、ヒイロは溶けてしまいそうなアイスを見つめていた。市販のアイスも好きだが、デュオが作ったアイスはもっと気に入っている。五飛が余計な茶々を入れなければ、今も残りを食べていた筈なのに・・・・。
　恨めしそうにアイスを見つめるヒイロに気づき、デュオは恋人の機嫌窺いを始めた。ヒイロは言葉より視線で心情を伝えることが多く、それを読み取るのは、自称デュオの愛の力なのだ。
「ゴメンな・・・少し溶けちゃった」
　五飛に邪魔されたから・・・その言い草にむっとした五飛が、バタンと派手な音でドアを閉めて部屋を後にする。デュオは悪びれた様子もなく見送り、いそいそと冷蔵庫へ向かった。
　確か・・・・まだ、あった筈・・・。
　沢山作って良かったと胸を撫で下ろしながら、新しいアイスを引っ張りだす。どうせ作るなら・・と小分けにして沢山作った自分を褒めてやりたい！
「ほら、ヒイロ。あ～ん♪」
　ついでにスプーンも交換し、再び部屋に甘い空気が流れ出した。
「プリン・・」
　ぽつっと零れたヒイロの願いに、デュオはせっかく出したアイスが溶けるのも放置して、プリンを取り出す。色も味も形も完璧！もちろん柔らかさも、香りも・・・プロ顔負けの、デュオ渾身の傑作プリンが運ばれてきた。
　甘い香りに頬が綻ぶヒイロの顔を見ながら、デュオの顔はデレ～っと崩れっぱなしだ。確かに五飛の言うとおり、スイーパーの連中が見たら幻滅間違いなしのダメ男振りである。
　ぱくっとプリンを頬ばり、ヒイロが幸せそうに味わう姿を見つめながら、デュオは今日も世界は平和だな♪と認識を新たにしていた。

　不自由なほど丁寧に巻かれた包帯の両手を差し出すヒイロに、デュオはニッコリ笑ってバッグを担いだ。そのまま包帯の手を首に回して抱きつくヒイロに、啄ばむキスをひとつ。
「さて、今日の仕事も終わり！　一緒に帰ろうか」
　さっさと帰ってくれ・・・そんな五飛の無言の抗議を背に受けつつ、2人は国家機密情報保持対策室を後にする。
　ドアを出た瞬間、書類をもったレディがびくりと壁に張り付いた。その姿に首を傾げたヒイロと、「お疲れさん」と声をかける平然としたデュオが擦れ違う。
　しっかりとヒイロを抱き上げたまま、デュオは軽い足取りでビルを出た。
　政府直属機関のビルから出てきたバカップルは有名で、待ち構えたファンに手を振る。さすがに写真撮影はお断りしている2人だが、今日も地球の一部のブログに”ラブラブ”っぷりをUPしたお嬢さんが山ほどいることだろう。
　これも平和の証―――なのだろう、たぶん・・きっと・・・。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　END.

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　あははははっ・・・・もうコメントのしようがないわ。
　どうでしたでしょ？
　バカップル風に仕上げてみました。ちゃんとプリンも食べれて良かったね、ヒイロ♪
　ゴメンね、五飛。君のダーリンが出張中だから、当てられちゃったかも・・・。
　この小説は、【1】と【2】ともに　ゆかりん様に差し上げます。返品不可ですが（苦笑）・・押し売りみたいかも？