W2×1　【MiyabihimeA】

　その日、五飛は朝から頭を抱えていた。政府の根幹を揺るがしかねない重大なテロ事件を片付け、報告書も作成し終えている。今日明日危険な任務もなく、通常ならのんびりしていられる現状で、元ガンダム・パイロットたる黒髪の青年は溜め息をついた。
「はい、あ～ん」
　甘ったるい声と同時に、ぱっと口を開いたヒイロにスプーンでアイスクリームを食べさせているのは、一応L2最大組織スイーパーのトップ・エージェントである。にっこりと笑顔でヒイロの顔を覗き込み、首を傾げていた。
「どう？　美味しい？」
　コクンと頷く素直なヒイロの様子に満足そうに、デュオは再びスプーンでバニラを掬う。
「もう一回、あ～ん♪」
　新婚家庭のリビングに乱入した訳ではない。あくまでもここは政府直轄（以下略）組織プリペンターの執務室だった。
　元ガンダム・パイロットの五飛、トロワ、ヒイロ、デュオが所属する『国家機密情報保持対策室』なる長ったらしい名前の部署は、プリぺンターでもエリート中のエリートだ。さらにいうなら、デュオだけ2足の草鞋で、スイーパーのトップ・エージェントも兼ねていた。
　テロを未然に防ぐために重要な情報を扱い、常に緊迫した任務状況・・・を周囲の部署は想像しているが、実際はデュオとヒイロの愛の巣に変わっている。それも今朝からの熱々ぶりは加熱の一途を辿っていた。
「これね、オレが作ったんだよ」
　器用貧乏―――これほど、この単語の似合う男もいないだろう。任務だけでなく料理も完璧にこなすデュオは、ヒイロの強請るままにバニラアイスを用意したらしい。
「美味しい・・」
　ぽつりと呟いたヒイロの褒め言葉が嬉しかったのか、デュオは満面の笑みで恋人を見つめている。そう、2人は恋人同士だった。五飛だとて、別に彼らの関係に偏見があるわけではない。ただ、仕事場で甘い雰囲気を作り出している2人の状況に、頭痛が激しくなるのは、彼の性格上当然だった。
「プリンもあるけど、まだアイス？」
　・・・・プリンも作ったらしい。
　ちらりと五飛が視線を送った先には、情報端末の横に設置された冷蔵庫がある。1人暮らし用のミニサイズだが、部署開設当初は部屋になかった家電が、気づけば当然の顔で鎮座していた。PCサーバーや地球国家の政府に直結する回線端末の横で、以前からの住人のように平然と電気を使っている。
　いわゆる盗電であった。
「もっと、アイスが食べたい」
　ヒイロの可愛いお強請りに、デュオは冷たいアイスをスプーンで差し出す。赤い舌を見せて、ぱくっとスプーンを咥えるヒイロの姿は、まるで餌付けされている鳥の雛だった。口の中で溶けると、また口を開く。すぐにスプーンが差し出され・・・・・。
　延々と続く光景に、五飛は溜め息をついた。今日何度目だろうか、溜め息のたびに幸福が逃げるとしたら、残っていないに違いない。そんな彼にしては非現実的な考えが浮かぶほど、目の前の光景は頭痛の種だった。
　仮にも地球を救った英雄であるエージェントが、他人にスプーンでアイスを食べさせてもらう姿というのは、どうだろう？　それも195年当時のヒイロを知っていれば、なおさらギャップが脳天直撃クラッシャーである。
　ああ、あの間抜け面のデュオの姿をスイーパーの実行部隊に見せてやりたい！　彼の死神の一面を崇拝している彼らの幻想も、一瞬で木っ端微塵だろう。
　ある意味、この部屋は地球とコロニーの最大機密を保持しているのかも知れない。
「あ、ヒイロ。動かないで」
　唇の端についているバニラを、ペロッと舐めて拭う。
「何をしている！　貴様らッ」
　さすがに見て見ぬフリが出来なくなった五飛が指差して怒鳴る。真っ赤な顔をして怒る五飛を前に、ヒイロはきょとんと恋人と同僚の顔を交互に見つめていた。
　何を怒っているのか理解していない風なヒイロの隣で、デュオは肩を竦める。
「何怒ってるんだよ。アイスが零れたから、拭っただけじゃん」
　なぁ？　と恋人に同意を求めて、素直に頷くヒイロがいる。
「そ・・そういうのは手で拭えばいいだろう！　それになぜお前が食べさせる必要があるんだ！！」
　あまりに平然としているヒイロとデュオの様子に、怒っている自分が馬鹿らしく思えてきた五飛だったが、ここは負けず嫌いの性格が邪魔をして引くに引けなくなっていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　ゆかりん様
　気に入っていただけるでしょうか？　びくびく
　できるだけ甘～い雰囲気を出しています・・・当社比200％
　続いちゃいましたので、残りも頑張ります！！