W2×1　【MiyabihimeA】

　理由が分かったのだ。
「魔物の純愛か」
　魔物は生涯に1人しか愛さない。故に愛情がないと勘違いされがちだが、呪術に関わる人間は知っていた。彼らの愛情の深さと、その純粋さを。
「知ってるの？」
　敵を倒す時とは正反対の、柔らかい笑みで手を差し伸べる。そっと触れれば冷たい感触が、興奮した体に心地よかった。
「ああ」
　純愛と呼ばれるほど、魔物の愛情は真っ直ぐだ。相手の長所も短所も、すべて受け入れて肯定する愛し方は、人間には望むべくもなかった。愛する相手に魔名を授け、己の全身全霊を傾けて守護し保護する。
　デュオが授けた名は「ユイ」―――生涯一度しか授けられない魔名をヒイロに贈った。
「・・・・デュオ」
　ずっと人間の中でも異端だった。呪文の詠唱もなく感情の起伏のみで発動する呪力の為に、家族に見捨てられて、1人で生きてきた。寄ってくるのは、整った外見や優れた術力を利用しようとする者ばかりだ。だが、彼相手にその心配は要らない。
　魔物は魔名を授けた相手に嘘をつけないから、彼の言葉のすべてを真実として受け止めても大丈夫だった。そして心変わりしたり、ヒイロを傷つけ利用することもない。
「オレはヒイロを好きだ」
　まるでヒイロが振り返った過去を知っているように、デュオは欲しい言葉を囁いた。甘く聞こえる声に頷いてやる。否定して傷つけてしまうのが、可哀想だから。
「だから・・・オレを好きになって」
　魔物に死神と呼ばれたデュオも、異端者だった。すでに滅びた神族と魔物の間に生まれた為に強大で使い切れない魔力を持ち、神族の能力を持つ故に魔物殺しとして”死神”と畏怖される。誰も近づかず、彼が何をしても誰も咎めなかった。
　ヒイロだけだったのだ。

　封印石が解かれて、自由になった衝撃で吹き飛んだ酒場で、目に付く人間を片っ端から殺して回った。両手が血に濡れて、爪が肉を切り裂く感覚に酔いしれる。
　人間は嫌いで、その中でも術師はさらに嫌いだった。僅かな力しか持たないくせに魔物に逆らい、神族を滅ぼし、下級とはいえ魔物を封じるのだ。封じられた状態でも、デュオは眠りにつかなかった。ずっと外の世界で起きている事件や情報を吸収し続け、封印が解かれる日を待ち望んでいた。
　ようやく自由になった開放感で、黒衣が濡れて重くなるほど人間を殺す。赤い血をぺろりと舐め、懐かしい味に微笑んだ。
　そのとき、
「そこまでだ」
　自分を止めようとする愚か者の声に、振り返る。紫の瞳は赤を帯びて鮮やかに輝いた。視線の先で、術力を纏う青年が立っている。酒場を中心に街を破壊した衝撃波を防いだだけでも、彼の能力の高さは窺えた。
「・・・大人しく寝てな。今は機嫌がいいから見逃してやるよ」
「ふざけるな！」
　怒鳴りつけられ、目を眇めた。黒髪に整った顔立ち、血で汚れているが白い肌は柔らかそうだ。何よりも魅力的なのは、彼の蒼い瞳と全身を包む呪力の輝きだった。
　―――初めて、見る。
　白い輝きを纏うのは、神族と決まっているのに・・・純白ではないが、限りなく白に近い輝きに魅せられた。
「人間が死ぬのが気に入らない？」
　彼も人間なのだ。その事実を把握せずに問いかけた間抜けさを自嘲する。デュオの笑みをどう取ったのか、柳眉が寄せられた。
「ああ、たとえ魔物であろうと死ぬのは気に入らない。簡単に命を奪うなど、何を考えている。失ったら戻らないんだ」
　術力を右手に集中させるヒイロの様子に、呪文の詠唱がないことに気づいて目を見開く。死体を踏みつけながら、無造作にヒイロへ歩み寄り手を伸ばした。
「うん、おまえならいい」
　初めて叱られた。
　初めて見惚れた。
　コイツなら全部やっても悔いはない。
　だから彼の長衣に接吻けて、契約を交わした。その直後に倒れたから、ヒイロは覚えていないのだろうが、オレはちゃんと覚えている。
　世界の真理に勝る―――唯一の誓い。

「側に、置いて・・・」
　声が掠れた。
「分かった」
　短く告げられた言葉は冷たく、しかし声は温かかった。三つ編みが背から滑り落ち、ヒイロが屈んで掴む。見つめる先で三つ編みの先にキスし、微かに笑んでくれた。
「愛してる、ヒイロ」
　声は自然に零れ落ちた。告白だと気づかないまま、心のすべてを曝け出して、目の前の美しい存在に手を伸ばす。触れた頬は温かく、吸い寄せられるように唇を合わせた。
　離れた瞬間、柔らかなヒイロの微笑みが目に飛び込み、デュオはとびっきりの笑顔で応える。
　旅はまだ、始まったばかりだった。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.....NEXT？
　　

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　初めてのチュー
　それがサブタイトルなのさ～！
　綾雅が壊れてドリー魔に憑かれています。今、ドリー魔が強烈に繁殖中なので、しばらくそっとして置いてやってください・・・。

追伸：本当は3部構成で、1部でようやくデュオの存在を認めて、2部で愛を誓い、3部で彼らの過去が出てくる予定なので、短く纏めすぎて・・・・意味不明になってしまった（汗）