W2×1　【MiyabihimeA】

　はっと顔を上げたヒイロの目に、にやっと笑うデュオの口元が見えた。次に黒衣が翻り、日中の明るい日差しが戻ってくる。
　・・ガードしてくれたのか？
　問いかける眼差しに肯定も否定もせず、楽しそうな表情で攻撃を防いだ黒衣の裾を確認したデュオが振り返った。
「どちらさん？」
「使い魔か・・・おまえに用はない」
「ふ～ん、強気だね。まだ500歳くらいだろ？」
　くすくす笑うデュオは、左後ろに立つヒイロを振り返った。
「どうする？　オレが片付けていいの？」
　片付けさせて欲しいと強請る眼差しに、少し躊躇う。先日の仕事で仕留めそこなった上級魔物だが、かなり強かった。実際ヒイロも逃げくれて助かったと思っていたくらいだ。
　魔力の強さと比例してプライドも高かったらしい魔物は、靡く金髪を指で弄んでいる。宙に浮いている体は、足を組んで椅子に座っているように見えた。浮遊能力も含め、デュオを自分より格下だと判断して見下している魔物の態度に、三つ編みの魔物は笑っている。
　今までヒイロへ向けていた笑みと違い、物騒な雰囲気だった。
「ヒイロ、いいだろ。オレにくれよ」
　認められるチャンスをくれと言いたいのか。もしかしたら、開放されたばかりの体を楽しむ遊び相手にしたいのかも知れない。伝承が本当なら、彼はとんでもない魔力を持っている筈だった。
「ならば命じる。あの魔物を片付けろ。ただし・・」
　この森の雰囲気は気に入っている。だから、森を破壊するなと告げれば、デュオは跪いてヒイロの長衣の裾を手で捧げ持ち、何かを呟いて接吻けた。
「失礼なガキを躾け直すとしますか」
　右手のひらを宙に向けて一度拳を作り開くと、漆黒の球体が浮かんでいた。物凄い魔力の塊なのだろう、少し離れて立つヒイロの肌を焼くほどの力を感じる。
「そ、そんな・・・」
　驚愕した表情の魔物を前に、にやっと口元を三日月に歪めたデュオが無造作に手を振った。そのまま叩きつけるのだろうと踏んだヒイロの予想を裏切り、球体は30ｃｍほどの刃物を形作る。
「死神は封じられたと・・」
「へぇ、少しは知ってるんだ・・・なら、オレと対峙する前に気づかなきゃ意味ないだろ。ああ、もう遅いか」
　笑いながら無造作に投げた剣は、咄嗟に避けようとした金髪の魔物の額を貫いた。黒い刃を突き立てられた魔物の目が見開かれ、急速に光を失っていく。崩れ始めた体と同じ位置まで浮遊したデュオの手がナイフを引き抜き、空の左手を胸に突き刺す。
「・・消えちまいな」
　直後、魔物の体を作っていた物質は分解され霧散した。
　圧倒的な勝利―――術師として上級クラスのヒイロさえ苦戦した魔物を、まったく相手にしない実力は伝承通りだ。これだけの能力があれば、ヒイロを殺して契約を無効にすることも可能なのに、なぜ人間ごときに縛られる気になったのか。
「はい、おしまい」
　地上に下りたデュオは左手の小さな宝石を見つめ、驚いているヒイロの前に差し出す。
「売ると結構な金額になるぜ」
　ほらっとヒイロの手を取って、宝石を渡した。魔物の生命力の中心は宝石で、能力の高い魔物ほど美しい石に結晶する。事実、デュオは完全に透明で傷のない金剛石だった。今手にした青い宝石も美しいが、デュオの封印石を見た後では明らかに劣る。
　つまり、それが魔物としての能力の差なのだろう。
「取り込まないのか？」
　以前に使役した魔物は、倒した相手の能力を自分のものにする為に飲み込んだ。デュオもそうするだろうと思ったヒイロだが・・・。
「いや、要らない。そいつの持ってる魔力も能力も、別に魅力ないしね」
「・・・お前ほどの魔物なら、俺を殺すのも簡単だろう」
「どうしたの？　ヒイロ」
　話を逸らす気なのか、眼差しで問い詰めれば肩を竦める。
「確かに簡単だよ。死神と呼ばれ、1000年前に封じ込められるまでのオレなら、ヒイロを殺して自由になることを選ぶけど・・今はおまえの側にいる方がいい」
　ふと、先ほどの言葉を思い出した。
　命じた直後にヒイロの長衣に接吻けたデュオが呟いた言葉―――汝にユイの名を授け、以って我が守護を与えん―――。
　誓いに似た文言は初めて耳にするものだ。
「さっきの誓いと関係あるのか？」
　キツい蒼の眼差しに見惚れながら、最高の笑顔で上位者の前に膝を折った。片膝をついた姿勢で頭を垂れる所作は、騎士が王に忠誠を誓う姿に似通っている。
「オレのすべてを捧げる誓いだ。寿命も、能力も、魔力も、体も、魂さえ、ヒイロの好きにしていい」
　命じれば死ぬことさえ構わないのだと、魔物は口にする。
「代償は・・？」
　口の中が緊張で乾いた。ごくりと喉を鳴らし、ヒイロは目の前の黒衣の青年を見つめる。魔物の誓いは何かしらの代償を必要とすることが多いと聞く。
　ならば、彼は何を望む？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　ああ、長くなってしまったぁ・・・涙
　裏設定作りすぎて、説明をはしょったら無理があって、しかたなく説明したら長く・・・エンドレス。

気づいた人もいるようですが、「魔力」と「能力」は別物です。能力は、例えるなら火や風など、どれに属する能力かというものですが、魔力は風の能力の燃料になる部分。つまり魔力は魔物の生命力と比例しますが、能力の高さは比例しません。
　幾ら魔力があっても能力がなければ困るので、他の魔物の能力を石から吸収したりする習慣が生まれちゃったんですね。
　ちなみに、ヒイロ達人間が使うのは術力。これは術を操るための潜在能力です。