W2×1　【MiyabihimeA】

「……ここはどこだ？」
　ヒイロの不機嫌そうな声を聞いても、デュオは一向に気にしない。返事や質問をしてくれるだけ、今日は機嫌がいいのだと受け取る前向きさで、城の玄関に車を横付けした。
「こないだ買ったんだよ」
「買った？」
　金があるのは知ってるが、城を買い取って平然としている男を怪訝そうに見やる。運転席から降りたデュオがぐるりと回りこんで、助手席のドアを開いた。エスコートする仕草は堂に入っていて、それがまたヒイロの不満を誘う。
「さあ、どうぞ」
　むっとした顔で歩き出したヒイロだが、いきなり腕を掴まれて抱き込まれた。そのまま地面を蹴ったデュオが玄関の車寄せに使われた、大きな柱の陰に転がり込む。
　パシン！
　足元の石材が砕ける音が響いた。びくりと肩を揺らすヒイロを自分の後ろに庇い、慣れた所作でホルダーから銃を抜く。安全装置を外した銃口を森のほうへ向けた。
「動くなよ、ヒイロ。オレの後ろが一番安全だからな」
　言われなくても動けない。ぺたんと座ったヒイロが無言で頷いた。黒髪をくしゃりと一回撫でて、デュオは銃の引き金を無造作に引く。ガーン、響いた銃声が森を揺らした。
　ヒイロが知る小型の銃と音が違う。もっと軽い音がするものだと思ったので、顔を歪めて両手で耳を塞いだ。音を気にした様子なく、デュオは銃口をすこし左へずらす。
「……思ったより早いな」
　そのままトリガーを引かず、銃口を足元へ下ろした。だが安全装置を掛けず、まだ人差し指を引き金に触れたままだ。何回か大きな銃声が聞こえたのを確認し、ようやくデュオは安全装置をかけた。
　恐る恐る見上げたデュオの表情は厳しく、普段自分へ向ける顔とは別人だ。整った顔をしているだけに、より恐怖があおられた。こんな顔の男は知らない。
「お待たせしました、デュオさん」
　何度か迎えに顔を見せたことがあるシフェルが優雅に一礼する。紺色のスーツに身を包んだ姿はスマートだが、胸元のホルダーから銃が覗いていた。穏やかな表情をしているが、彼もまた裏社会の人間なのだ。
「お茶を淹れてくれ」
「私は執事ではありませんよ」
　文句を言いながらも、シフェルは言葉ほど気にした様子はみせなかった。デュオの陰に座ったままのヒイロへ、優しく声をかける。
「ヒイロさんは甘いものがお好きでしたね、ご用意しておきます」
「行こうぜ、ヒイロ」
　手を伸ばすデュオとシフェルの顔を交互に見て、迷いながらデュオの手を取った。汗をかいた手のひらを、ひんやり冷たい手に重ねる。ぐいっと力強く起こされ、立ち上がった足が僅かに震えていた。目の前で起きた銃撃戦、相手の姿は見えなかったけれど、反撃が途絶えた事実が重くのしかかる。
　デュオは狙われていると言った。出かけた先で銃撃されるのは想定してた筈で、なのに人気（ひとけ）のない山の城へ向かう。つまり、囮となって敵を炙り出したのだろう。
「紅茶はオレンジペコがいい」
　我が侭を口にしながら、ヒイロを引き寄せて歩き出す。震えに気付かないフリをする男は内心で溜め息をついた。
　やはり怖がらせてしまった。この程度の敵、殲滅するだけなら簡単だ。今後の組織の力関係を無視しても構わないなら、すぐに片付く案件だった。しかし無理を押し通して片付ければ、今後のヒイロの生活に関わるだろう。

　安全に学校へ通わせ、約束した年齢まで面倒を見て――いずれ、この手を離してやらなくてはならない。来るべき未来を知りながら、デュオは己の複雑な感情を押し殺す。
　触れた手から伝わる温もりを失うくらいなら、いっそ殺してくれたら……。
　心に浮かんだ我が侭を笑みの裏に隠し、デュオは城の奥へ足を進めた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　To Be Continued...

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　はい、お城購入したでぉさんです。実はお城にもヒイロに関わる理由があるのですが……まあ、その辺はおいおい出てくるでしょう。ただの贅沢ではないのですよｗｗｗ