W2×1　【MiyabihimeA】

　だから、この男も落ちると思った。落とせる筈だと信じていた。
「死ぬか、消えるか、選ばせてやる」
　オレは親切だからな。そう嘯いたデュオの青紫の瞳に情は一切なかった。殺しても構わない。組織が死体まできれいさっぱり始末するだろう。生かして逃がしても問題はない。なぜなら、オレはまだ組織に必要な存在だった。
　一部の連中が暴走して銃撃されたが、殺すのではなく脅そうとしただけだ。つまり己の陣営に、もっとも強力な駒を引き込もうとした結果だった。
　正直、デュオの性格を読み誤った悪手だが……。
　他人に頭を下げることを嫌う。組織の中にあって、すべての部署の頂点は実行部隊だった。厳しい訓練を経て任務を遂行し、生き残ってきた実力者の集まりだ。経費を切られようと、頭ごなしに命令されようと、彼らが本気で実力行使すれば組織内の力関係は崩壊する。だからこそ、実行部隊の長は別格だ。
　実力と己のみを信じて生きている荒くれ者を従わせるだけの能力や才能、なによりカリスマ性が必要だった。デュオがトップ・エージェントに就任してから、組織同士の力関係が変わった。それだけの実力を見せつけた男を脅しても、彼は平然と跳ね除ける。
　脅迫に失敗したので、今度は懐柔策を練ったのだろう。
　足元で涙を流してみせる女の演技に、デュオは大きく溜め息を吐いた。それを許しと勘違いした彼女の白い手が伸ばされ、触れる直前で真っ赤に砕ける。
「きゃぁあ！」
　悲鳴に銃声が重なった。触れそうな手を大粒の宝石付きの指輪ごと吹き飛ばし、デュオは膝をつく。蹲って右手を抱え込む女の黒髪を手で掬い上げ、掴んで強く引いた。血の上に倒れこむ女性の耳元で、優しいと錯覚させる声で囁く。
「飼い主に失敗したと頭を下げるチャンスをやろうとしたのに」
　愚かな美女は震えるだけ。
「オレに触れようなんて、バカなことするなよ」
　そのまま手を引けば生かしておいてやる。そう告げる言葉の残酷さを、デュオは誰よりも知っていた。彼女は生きて帰っても、上司に殺される。失敗したエージェントに未来はないのだ。
　知っていても助ける気はなかった。
　掴んだ黒髪を離して、手のひらについた血に気付いて眉を顰める。胸元から取り出したハンカチで返り血を拭うと、蹲った女の上に放り投げた。
　踵を返したところで足を止め、半分ほど振り返る。その口元は弧を描き、笑みを作っていた。
「やめておけ、死ぬだけだ」
　珍しく本心からの忠告だったが、彼女は身を起こす。左手に光る銃の引き金を絞った……が、直前に銃が暴発する。右手に銃を持つデュオが安全装置をかけた銃を仕舞った。暴発した銃と一緒に吹き飛んだ彼女の左手の破片が床に赤い花を咲かせる。
　撃ち抜かれた右手と砕かれた左手。彼女にもう反撃の術はなかった。
「デュオ、またか？」
　銃声で駆けつけた部下のジャックが呆れ顔で廊下から声をかける。部屋を出て扉を閉めながら、デュオは肩を竦めた。
「モテる男は大変なんだ。それより、今日は予定がある」
「はいはい、部屋の片付けは手配しておくよ。送るか？」
「迎えがくる」
「あっそ」
　慣れたやり取りを経て、デュオは何事もなかったように部屋を後にした。中をちらりと確認したジャックはすぐに首を引っ込める。赤く濡れた室内には、服毒自殺したらしい女の死体が転がっていた。



　優秀な副官に用事をいいつけて１人になった途端、これだ。本当にデュオを押さえたいなら、ヒイロを狙うしかない。最強と謳われる男の唯一の弱点だった。それを誰よりも理解するから、デュオもシフェルも『ヒイロ・ユイ』の警護に手を抜かないのだ。
「今日はシフェルに任せたが……」
　明日以降の予定を考えないと。思ったよりも切迫する現実に、デュオは「なんとかするさ」と笑みを深めた。

　　　　　　　　　　　　　　　To Be Continued...

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「なんとかなる」ではなく、「なんとかする」あたりがデュオですね。お久しぶりです。9月からオリジナルを積極的に書いてまして、ちょっと21が後回しになっちゃってました。多少のリハビリをかねて量産オリジナル生活をしています。21も頑張るぞ！！
　あ、クリスマス話も考えないと……ヾ(ﾟﾛﾟ*)ﾂ三ヾ(*ﾟﾛﾟ)ﾉ