W2×1　【MiyabihimeA】

　余人が入り込まぬよう厳重に管理される理由は、本物の銃を使った訓練が行われているためだ。
　生き残るために必要な技術を磨く場所であり、体力保持や筋力トレーニングも行う。一般人より優れた能力を誇る地下組織の実行部隊は、常にその能力を磨き続ける必要があった。
　そして、それはトップ・エージェントであるデュオ自身にも適用される。
「はあ……」
　ビルに専用の施設を持ち、巨大なコンツェルンを裏から統括する立場の人間らしからぬ、ひどく弱い溜め息が口をついた。デュオの長い三つ編みも、主につられたように力なく背から滑り落ちる。
　開いたドアの先に目をやり、スイーパー・グループを支えるエージェントの訓練を見ながら足を進めた。
　……誰でもいい、オレの代わりしてくれないかな。
　誰に提案しても断られること確実なぼやきを内心に隠し、尊敬の眼差しを受け止める。細身に見えて鍛え上げた身体を解し終えたところに、通信が入った。
「オレだ」
　インカムをオンにして愛用の銃をバラして組み立てる。暗闇でも行えるほど馴染んだ作業の手が、ぴたりと止まった。
「それは……」
　聞こえてきた内容に眉を顰める。
　昨日のパーティーで狙撃を仕掛けた男は殺した。だが命令した組織がいる筈で、調査を頼んだ情報屋レイルからの通信は、予想外の結果を齎した。
「ふーん、それ、誰かに言ったか？」
　仕事なのに依頼主以外にもらす男ではない。通常なら憤慨するレイルも、内容が内容のため淡々と冷めた声で否定するだけだった。
「わかった。報酬はいつも通りで。あと……これは非売品にしといてくれ」
　しっかり口止めを行って通信をきる。眉を寄せて考え込むデュオの手が、組み立て途中だった銃を弄り始めた。あっという間に組み立てると銃弾を装てんし、無言で歩いていく。
　さっと道を譲る部下を一瞥し、防音ドアの先へ足を踏み入れた。

　――誰が裏切り者か。

　頭の中で、組織の面々を黒と白に分けながら、標的へ向けて銃を構えた。耳を保護するイヤーマフを左手ではめて、無造作に引き金を引く。室内、それも地下は音がこもる。耳に痛い爆音を遮断したデュオの意識は、さきほどの通信内容に向いたままだった。
　レイルが調べた結果、デュオを狙ったのは……この組織だ。
　スイーパーの内部から出た命令が、他の組織に受注された。デュオへ銃口を向けた男の後ろにいた組織は、このスイーパーから雇われていたわけだ。
　灯台下暗しか。
　組織内がごたごたしているのは気付いている。今の総帥は高齢で、次の頭を誰にするかで揺れていた。派閥が出来て、誰もが生き残るために右往左往する。
　スイーパーは一枚岩ではない。沢山の個が集まった組織であり、契約という紐で繋がれた彼らに忠誠や信念を期待するのは間違っていた。生き残ること、金をためること、目的はそれぞれ違うだろうが、最終的に己が中心なのだ。
「まあ、殺されてやる気はないな」
　少なくとも、ヒイロ以外に殺されるなんてゴメンだった。
　呟いた声は銃声にかき消され、イヤーマフに遮られて誰の耳にも届かない。唇の動きを読ませることなく、俯いて笑ったデュオの口元が引き締められた。
「面倒だが、対応は必要か」
　最低限、己の身の回りを守る手段は必要だ。狙われても生き残る自信も実力もあるデュオだが、ヒイロに手を出されたら……手も足もでなかった。彼にわずかでも危害を加える可能性がある連中がいるなら、その前に手を打てばいい。
　物騒な雰囲気を漂わせながら、死神の二つ名を持つ男は標的の中心を撃ちぬいた。

　　　　　　　　　　　　　　　To Be Continued...