W2×1　【MiyabihimeA】

　傷だらけで見つかった捜査官デュオと、彼を守る形で発砲した民間人ヒイロの図が問題なのだ。
　ベッドの上で退屈そうに点滴を数えているデュオへ、もう一度しっかり言い聞かせた。
「いいですか？　民間人を巻き込まない！　これは絶対条件です」
「どんな理由でも？」
「どんな理由があっても、です！！」
「…犯人殺したら怒るくせに」
　唇を尖らせて抗議する子供…見た目はともかく、中身は小学生と変わらない。以前の捜査で犯人と撃ち合いになり、犯人側を全滅させたことがあった。８対１の不利な状況ながら、足や腹を撃てば即死は免れただろうが、デュオの銃口が狙ったのはすべて額…。背後関係を洗うどころか、事件の動機や詳細もすべて闇の中になってしまった。
　あの事件で叱られて以来、基本的にデュオは銃を撃たないようにしているらしい。他人に迷惑をかけても、銃を抜こうとしない。本来、動くターゲットの額をピンポイントで撃ち抜く技量があれば、別の場所を撃つことなど容易い筈だった。
　どういう教育を受けたらこうなるのか。デュオは無意識に額へと照準を合わせ、直後にトリガーを引いてしまう。ある意味、歩く殺戮マシーンのような状況だった。
「殺さずに捕らえてください」
「だから、ヒイロに頼んだんだろ」
　そして話はループして振り出しに戻った。
　デュオの言い分によれば、犯人を殺さないで捕まる⇒自分が銃を撃てば殺す⇒ヒイロに頼もう⇒民間人だけどいいよね？　となる。頭がいいのだから、どちらも両立できる策を考えるのが仕事でしょう…そんなシフェルのぼやきも無視し、デュオは再び点滴を眺めながら欠伸をひとつ。
　これ以上の議論は、また一周して元に戻るだけと諦めたシフェルが書類を取り出した。
　分厚いファイルには、写真や図面も含まれているようだ。
「基本的に、デュオさんが予想した話で間違いないみたいですね。最初の誘拐は白人の子供を欲しがる家庭からの依頼で行われました。その子供を引き渡す前に、子供を見た別の依頼者から『同じ条件の子供を４人』欲しいと注文を受けたそうです。なお、依頼者は現在も追跡中です」
「ふーん」
　解決した事件に興味が失せたか、単に叱られたので拗ねているだけか。デュオは気のない返事をしながら、点滴から目を逸らさなかった。薄い黄色がぽたりぽたり落ちる様は眠気を誘う。
「では、安静にしていてくださいね」
「それ、サインは要らないの？」
　そのために持ってきたのだろうと首を傾げるデュオへ、シフェルは苦笑いしてファイルをサイドテーブルの上に置いた。
「いいえ、サインは不要です。退屈だろうと思って資料を持ち込んだだけですから」
　犯人が生きて逮捕されたため、ほぼ全容が当事者の口から語られた。殺された子供についても、殺人の立件は十分可能な証拠が揃っている。つまり、もうこの事件にプロファイリングの出番はない。
　あの場で犯人を取り逃がし、次の殺人が起きれば…あるいはデュオの頭脳が必要とされたかも知れない。だが誘拐事件とそれに伴う殺人はこれで解決だった。
　自分が関わった事件の結末に興味があるだろう、とシフェルが気を利かせて資料のコピーを用意したのだ。
「くれぐれも、脱走したりして騒動を起こさないこと。いいですね？」
　やりかねないと思い、しっかり念を押せば、仕方なさそうに頷いてみせる。
　一応約束をさせれば、あまり無茶はしない。ときどき、わざと約束を忘れることはあるが…大きな事件や興味を引かれる事案がなければ大人しくしているだろう。そのための約束を結び、シフェルはおまけとばかりにオレンジの入った紙袋を差し出した。
「お見舞いです」
「サンキュ」
　受け取るなり、さっそくオレンジを取り出すデュオだが…驚くほど不器用な剥き方で皮を散らかす。呆れ顔で手を出そうとしたシフェルだが、ドアから入ってきたヒイロの姿に手を止めた。
「…デュオ？」
「あ、ヒイロ！」
　大きな溜め息を吐いたヒイロがデュオの手からオレンジを取り上げ、器用に剥いていく。身を４つに割って渡す姿に、シフェルがにこやかに声をかけた。
「私は失礼しますので、後はお願いしますね」
　軽い足取りで出て行く後姿に、ヒイロは心の中で呟いた。
　…押し付けられた。

　　　　　　　　　　　　　　　To Be　Continued...

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　さっさと逃げるシフェル。押し付けられたヒイロ、押し付ける荷物扱いのでぉ。ｩ─σ(･´ω･｀*)─ﾝ…互いの立ち位置がはっきり出てきましたね。そろそろ、ヒイロさんが本性で応対してくれてもいいのよ？　とか思う。